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2015年12月04日(Fri)
「子供の貧困」の経済的影響推計
一学年でも経済損失は約2.9兆円
教育支援と就労支援の両方が重要


日本財団は、深刻化する子どもの貧困を経済的視点から捉えるため、子どもの貧困を放置した場合の経済的影響を推計したレポートをまとめ12月3日、東京・赤坂の日本財団ビルでメディア向けの説明会を開きました。推計結果は、現在15歳の子ども約120万人のうち、生活保護世帯、児童養護施設、ひとり親家庭の子ども約18万人だけでも経済損失は約2.9兆円に達し、政府の財政負担は1.1兆円増加するという内容です。この結果から、子どもの貧困は経済に大きな影響を及ぼすことが浮き彫りになっています。

メディア向け説明会で推計結果が明らかにされた
メディア向け説明会で推計結果が明らかにされた

わが国の子どもの貧困率は一貫して上昇傾向にあり、2012年には16.3%、およそ6人に1人の子どもが貧困状態にあるとされています。この数字は経済協力開発機構(OECD)加盟諸国の中でも極めて高い水準です。また、わが国の経済は内需に大きく依存している構造にあり、人口減少時代の今日、内需をいかに維持するかが重要です。子どもの貧困問題を放置すると、国民所得さらには消費の低下を招くため国内市場の縮小を一段と加速させることが想定されます。

以上のような背景から、日本財団と三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社は、子どもの貧困を放置した場合の経済的影響を推計する研究を今年7月から11月までかけて行いました。

この日開かれた説明会には、テレビ、新聞計11社、13人が出席しました。まず青柳光昌・日本財団ソーシャルイノベーション推進チームリーダーが「わが国では次代を担う子どもの6人に1人が貧困状態にあるのに、この問題が経済に与える影響を調査しているところがない。これは自己責任の問題でも、税金だけの問題でもない。そこで、官の活動だけではなく、民間の活動も促すために具体的な数字を出していこうと研究を行いました」と、研究の目的を説明しました。

推計の中身を説明する三菱UFJリサーチ&コンサルティング職員
説明する三菱UFJリサーチ&コンサルティングの横山重宏さん(左)と小林庸平さん


続いて担当者が推計の方法、推計結果の報告を行いました。それによると、子ども時代の経済格差が教育格差を生み、将来の所得格差につながると推定、現状を放置した場合と、子どもの教育格差を改善する対策を行った場合の2つのシナリオを比較しました。

1. 現状シナリオ:子どもの貧困対策を行わず、教育・所得格差が継続する場合=具体的には貧困世帯の子どもの進学率、中退率が現状のままのケース

2. 改善シナリオ:子どもの貧困対策を行い、教育・所得格差が改善された場合=主に未就学児への教育支援などの対策を行うことで、高校の進学率および高校中退率が非貧困世帯並みになり、かつ、貧困世帯の子どもの22%(海外研究事例)が大学などへ進学することになったケース


シナリオ
シナリオ設定(クリックで拡大します)


そのうえで、現在15歳の子どもが64歳までに得る所得および税・社会保障の費用の純負担額を算出し、両シナリオの差額分を算出しました。この推計では、15歳の子ども120万人のうち、生活保護世帯(2.2万人)、児童養護施設(0.2万人)、ひとり親家庭(15.5万人)の子ども計約18万人を推計対象としています。

推計の結果、現在15歳の生保、養護、ひとり親の子ども約18万人が64歳までに得る所得の合計額について「現状シナリオ」では約22.6兆円、「改善シナリオ」では約25.5兆円となり、差額は約2.9兆円となることが分かりました。これは貧困対策を行わない場合、将来的に約2.9兆円(1学年あたり)の市場の縮小、つまり、経済損失が生まれることを意味します。平成27年度の児童手当の政府予算が1.2兆円であることからも、その大きさがいかがえます。

推計01.jpg
推計結果1(クリックで拡大します)


所得の差は税・社会保障費用の個人負担額の差となって表われます。推計の結果、税・社会保障の純負担額(社会保険料と税の合計負担から社会保障給付を差し引いた金額)が、現状シナリオでは約5.7兆円、改善シナリオでは約6.8兆円となり、差額は約1.1兆円となることが分かりました。これは、子どもの貧困対策を行わないと、将来的に政府の財政負担が約1.1兆円増加することを意味します。

推計02.jpg
推計結果2(クリックで拡大します)


以上の結果から、現状シナリオでは、改善シナリオと比べ、1学年だけでも生涯所得の合計額が2.9兆円減少し(つまり経済損失となる)、税・社会保障の純負担額が1.1兆円減少する(つまり政府の財政負担が増える)ことが明らかになりました。

この推計は現在15歳の子どものみを対象としていますが、全年齢、さらにはこれから生まれてくる子どもを考慮すれば経済への影響は甚大となります。しかも、この推計は犯罪による被害額、およびそこから波及する刑務所の運営費などを含んでいないので、それらを含めると実際の影響額はこの推計結果を大きく上回ると思われます。

メディア向け説明会の模様を取材する報道陣
メディア向け説明会の模様を取材する報道陣


このため、子どもの貧困対策を慈善事業でなく、経済対策として捉え、教育・所得格差の解消に有効な投資対効果の高い施策を模索することが求められています。なお、推計レポート全文は12月半ばに日本財団の公式ウエブサイトで公開される予定です。

説明の後、質疑が行われ、「学歴と就業形態で所得に差が出るということですが、教育的対策と就労面での対策のどちらが重要なのですか。また、その根拠は何ですか」などの質問が目立ちました。これに対し、財団職員から「われわれは政策的な議論はしていない。この推計が政策立案の基礎データになればいいと思う」と答えました。そのうえで、個人的な意見と前置きし「高校中退率がカギになっている。高校を卒業することが大事で、高校中退をいかに予防するかが重要だと思います。高校を卒業すると正規職員も多くなるので、教育、就労の両面からサポートしていくことが大事だと思います」と答えていました。

一方、この研究結果について、宮本みちこ放送大学副学長(内閣府「子どもの貧困対策に関する検討会」座長)は「豊かな時代を経た日本では、貧困というものに対する感度が鈍くなっている。子どもの貧困に取り組むためには、多くの国民がこのテーマの重要性を他人事でなく、自分に関係することと感じることが必要だ。そのためには問題の持つ意味を数字で明示する必要がある。その点で、この研究は大変意義深いと思う」と述べています。
タグ:子どもの貧困
カテゴリ:こども・教育







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