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2015年12月03日(Thu)
不登校児に必要な真の自立とは
地域格差の壁と闘う
〈助成先訪問記〉 くまもと学習支援ネットワーク


フリースクールの運営に加え、往復するのに一日かかってしまうような遠方にまで出向き、支援が必要な子や家族に直接働きかけを行っている団体があります。熊本市のNPO法人くまもと学習支援ネットワーク(くま学)。日本財団は、彼らの事業を助成しました。不登校の子供にとって真に必要な支援はなんでしょうか。不登校に関する地方特有の課題や、その支援の在り方とは。現地でお話を伺ってきました。

くまもと学習支援ネットワーク

熊本市の観光名所の一つ水前寺公園。大通りをゆったりと進む路面電車に揺られること3駅で、目的地周辺にやってきました。路地に入ると、「不登校相談」と書かれたのぼり旗が見えました。

くま学


今日の訪問先はこちらです。

くま学


迎えてくださったのは、事業部長・中山聖也さんと第一事業部の石本圭佑さん。二人とも、黒いビジネススーツ姿ですが、それに違和感を覚えるほど語り口は穏やかです。ほんの少し話しただけで、保健室を訪れた時のような静かで落ち着いた気持ちになりました。「心の相談員(スクール・ソーシャルワーカー)として、学校現場で年間約200回、子供たちと向き合っています」という中山さんの話に納得です。

くま学は、不登校やニートの子供をサポートしています。中学生が学ぶフリースクール「コスモス教室」を運営したり、ホームカウンセラーといって、家から出られない子供のためにカウンセラーが訪問するサービスを行ったり、高校の年齢になった子供のための通信制高校「未来高校熊本学習センター」を開設したりしています。

くま学石本さん


しかし、それは子供たちの学力向上を単に目指すものではありません。石本さんは「健康で自立できる支援を現実的に行っています」と言います。学力を上げることは途中の段階であって、目指すのは自立。自立と言っても人それぞれ考えは異なりますが、くま学では、「親が高齢になった時、40〜50歳になったその子が、暮らせる家を持ち、食べられるだけの稼ぎがあるという状態」を自立と考え、支援の方向性を考えています。

そこから導き出された支援の大きな目標は、雇用されること。「就職に必要なのは、高卒という学歴と健康です。熊本県では就職率は中卒だと限りなくゼロに近い。だから、高卒になることは絶対に必要で、そのための学習支援を行っています」と中山さん。

しかし、不登校やニートの子供に関わる課題として、もっと深刻な問題があります。地域格差です。「熊本市は、なんでもそろっています。不登校の子供たちが通える場所や行政サービスは充実していると言ってもいいほどです。一方、そのほかの地域では、フリースクールはほとんどありません。社会的支援が大変少ないんです。不登校の子供たちは行く場所がなく、結果、自宅での引きこもりが助長され、家族との関係も悪化させてしまっています」

熊本県は九州の中央に位置し、福岡、大分、宮崎、鹿児島の4県とは陸で、長崎県とは海で県境を持っています。県の中心部である熊本市に人とモノが集中し、県境に向かうほど交通も不便で、さまざまな支援の手が届きにくくなっているというのです。

そこで、くま学では、出張版のフリースクールとして「寺子屋学習会」を計画。熊本市のフリースクールに通ってこられない子供たちのために、それぞれの地域へ出かけて行って学習支援をする場を設けることにしました。

寺子屋
くまもと学習支援ネットワーク提供


しかし、課題がありました。人件費です。「県境地域は、熊本市から片道5時間もかかってしまう場所もあります。そのため、臨床心理士や、精神保健福祉士、社会福祉士といった有資格者を現地入りさせようとすると人件費が膨大にかかってしまうのです。例えば臨床心理士の時給は5000円。これでは、移動だけで5万円もかかってしまいます」と中山さん。

そこで、2013年度、日本財団の助成金を活用し、県内12市の公民館を活用して実現させることができました。1回3時間の指導を週に2回、1年を通しての実施です。各会場で10人を対象としました。

くま学がこのとき、学力向上のサポートには直接関係のない有資格者を現地入りさせたのには、意味があります。中山さんは説明します。「勉強の向上を目指すだけなら大学生のアルバイトにもできます。しかし、真に目指すのは、子供たちが社会に出られるようにすること。それには、それぞれに合った支援を見極める必要があります。それができるのは、こうした有資格者です」

寺子屋
くまもと学習支援ネットワーク提供


中山さんは、不登校の子供たちの5〜6割は、病気や障害を抱えていると感じています。「学校に行ける子が多い中で、その子が行けないのだとしたら、何か問題があると考えることができます。フリースクールでは、過去に犯罪を起こした子を受け入れることもありますが、そうした子でも、およそ1割が発達障害や認知障害などの問題を抱えているという印象です」

不登校になった子や、犯罪に手を染めた子は、その子が単に怠けていたり、道徳観念が欠けていたりするのではない場合が多いのです。こうした問題を抱えているとしたら、それを専門家によって見つけ、その子に対して適切な支援の方法を考えるのが大切です。

中山さんによると、例えば、知的障害のレベルは、障害が重い順にA1、A2、B1、B2とカテゴリーがあります。B1は支援学級のサポートを受けるレベルです。その一段軽いB2は一般にわかりにくく、中山さんが担当したなかには、高校生になるまでそれを見過ごされていた子がいました。他者からは「しつけが悪い」とみなされ、親は「なんでこの子は、こうしたこともわからないのか」と悩む毎日。しかし、B2という知的障害だとわかったことで、親は「この子は怠けているのではなく病気なのだ」と納得したといいます。

子供への学習支援が表面的な目的だった寺子屋学習会ですが、結果として、送迎してくる親の悩みや愚痴を聞いたり、その子の現状を把握したりすることになりました。性同一性障害の子や自殺の可能性の高い子など、それぞれの障害や疾患に気づいて病院につなげ、障害者手帳を取得する道筋をつけることができました。

寺子屋
くまもと学習支援ネットワーク提供


「不登校の子への支援は、その子ごとのきめ細かいアプローチが必要です。しかし、行政では、原資が税金ですから、人口が少ない地域への支援はどうしても手厚くできないという事情もあると思います。だから、これは助成金をもらった民間として、是非ともやるべき取り組みだと思っています」と中山さんは事業の意義を語ります。

寺子屋学習会では、課題も見えました。学習会に出てきたくてもそれができない子への支援です。

しかし、今回の取り組みで、スタッフが学習会への道のりを一緒に歩いたら、2回目は独りで来られるようになった子供が何人かいました。家に引きこもっていた子にとって、これは大きな一歩でした。人件費がかかるので、今回は「非常に必要となっている子」に限定して支援しましたが、この種の支援は、子供が独りで外出をするきっかけを生んだという意味で、大きな可能性を含んでいます。

中山さん.JPG


「独りで学習会に行けるようになったら、今度は、病院に、コンビニに、と行ける場所が増えていきます。買い物するなどして外の空気を吸うことで、ストレスが軽減され、家庭内の人間関係にも好影響を与えるなど、好循環を生むことが期待できます」と中山さんは語ります。

現在、ネットワークでは、なんとか人件費を捻出し、一緒に歩く支援を必要な子の全員に届けられることを目指しています。独り外出という一歩が、その子にとっての自立につながるとしたら、それは人生をかけた大きな一歩です。ネットワークでは、地域格差によって阻まれがちなこうした細やかな支援を届けようと、取り組みを続けています。




くまもと学習支援ネットワークウェブサイト
住所:熊本市中央区神水1丁目15−9








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