2015年11月25日(Wed)
官民連携で再犯防止の強化図れ
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(産経新聞【正論】2015年11月24日掲載) 日本財団会長 笹川 陽平 一度、罪を犯すと、立ち直りができないまま2度、3度と犯罪を重ねる再犯の悪循環が安心・安全な社会を実現する上で大きな問題となっている。2020年の東京五輪・パラリンピックに向け「世界一安全な国・日本」を目指す政府も、昨年末の犯罪対策閣僚会議で「犯罪に戻らない・戻さない」を宣言。刑務所や少年院など矯正施設を出た後、2年以内に施設に戻る人の割合を10年以内に20%以上減らす目標を打ち出している。 |
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モデル施設で訓練の強化を 再犯防止の鍵となる「仕事」や「居場所」の確保は、家庭環境など一人一人で事情が違い、「官」の力で一律に対応するのは難しい。やさしい目線で厳しく指導する「民」の協力こそ欠かせない。 そんな中、企業が親代わりとなって出所者らの社会復帰を支える「日本財団職親プロジェクト」の大阪、東京に次ぐ拠点が今月9日、福岡で発足した。 地元の16企業が参加しており、再犯防止はこうした民の情熱を取り込み官民連携を強化することで大きく前進すると考える。 法務省とは谷垣禎一元法相以降、計10回の合同勉強会を重ねており、岩城光英法相にも、全国数カ所にモデルとなる矯正施設を整備し、就労に結び付く技能や資格取得訓練の拡充をお願いした。 職親プロジェクトの参加企業は現在、先行した大阪の11社、東京の8社を合わせ計35社。これまでに35人が出所後、参加企業で半年間の就労を体験し、現在も10人(29%)が就労を継続している。職場定着率を40%まで引き上げるのが今後の目標だ。 同様の試みは各地で始まっているが、このプロジェクトは出所者が自分の過去をオープンにし、参加企業も彼らを雇っている事実を公表する点に特徴がある。それが社会の信頼につながるとの判断で、対象も殺人や性犯罪、薬物使用を除く初犯者に限定している。 初犯者の更生が犯罪減らす 犯罪白書によると、初犯者が2年以内に刑務所に戻る率は8・6%、これに対し入所歴3回以上はほぼ4倍に上り、再犯防止の成否は初犯者の2度目の犯罪をどこまで減らせるかにかかる。立ち直りがより期待できる層を当面の対象とすることで成功事例を積み重ね、社会の理解獲得につなげるのが狙いだ。 1948年から約60年間に有罪が確定した犯罪を基にした調査で、犯罪者の約30%を占める再犯者が事件の約60%を起こしていた、との統計もある。 わが国の犯罪は、一般刑法犯の検挙者が05年以降、減少する中、再犯率は逆に1997年以降、上昇傾向にあり、14年には過去最高の47・1%を記録。本欄に2年前に「『民』の情熱を再犯防止に生かせ」を掲載した際の11年データに比べ3・3ポイントも上昇している。 今後も上昇が予想され、再犯を重ねれば社会の目線も一層、厳しくなる。初犯者に限らず出所者全体を対象に、総合的に再犯防止に取り組むべきは言うまでもない。 出所後、再び刑務所に戻った人の70%は職がなく、再犯率が有職者の3倍に上っているほか、刑務所を満期出所した人の過半に帰住先がなく、半数以上が1年以内に再犯に走っている。データからも職と居場所の確保が何よりも急務となる。 政府も06年、旧監獄法を約百年振りに全面改正し新たな刑事収容施設法で受刑者の矯正に加え、社会復帰に向けた改善・更生を前面に打ち出した。20年までに出所者らを雇用する企業の大幅増と出所後、帰る場所のない元受刑者を30%以上減らす、などの目標を掲げている。 再チャレンジを保証する社会 入所後、早い段階で企業が刑務所に出向き面接する機会や、就職が内定した段階で出所者の個人情報を可能な限り雇用主に伝えるような方法も検討されていい。 全国で1万4千社を超える協力雇用主制度も抜本的に見直す時期に来ている。出所者を実際に雇用している雇用主は全体の5%に満たず、せっかくの制度も機能しているとは言い難い。 福岡プロジェクトの中心となる株式会社ヒューマンハーバーの副島勲社長は「出所者が自立更生して働けば、本人も家族も地域社会も全部幸せになる。新たに納税者にもなるわけで、もう一度やり直しがきく人生を協力して支えなければならない」と語っている。 犯罪者になる可能性は誰にもあり、一度の失敗がその後の人生をすべて決める社会であってはならない。犯罪が減れば犯罪被害者も減る。 われわれは障害者や高齢者など、だれもが参加できる社会づくりに取り組んできた。「過去は変えられないが未来は変えられる」。職親プロジェクトのこんな考えを社会で広く共有してほしく思う。 再チャレンジが保証された社会こそ健全であり、安倍晋三首相のいう「1億総活躍社会」にもつながる。出所者らの更生も、その例外ではない。 |

一度、罪を犯すと、立ち直りができないまま2度、3度と犯罪を重ねる再犯の悪循環が安心・安全な社会を実現する上で大きな問題となっている。
