2015年11月03日(Tue)
シルクロードの街に鬼城を見て政権の拙速を憂う
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(リベラルタイム 2015年12月号掲載)
日本財団理事長 尾形 武寿 9月初旬、四半世紀振りに中国西北地域、甘粛省の省都・蘭州を訪れた。かつてはシルクロード要衝の地として栄え、現在は石炭、石油化学を中心に中国10大工業都市の一つに数えられている。標高約1700m。南北を山に囲まれ、東西に流れる黄河の両側に340万人が住む。古代、シルクロードに入る旅人は、この地で黄河を渡ったとされ、秦や唐時代の寺院等、多くの遺跡が残る。 蘭州中山空港や道路は西北地域の最大都市にふさわしく近年、立派に整備された。しかし、広い道路にまだ街灯はない。夕暮れに到着したこともあって街全体が薄暗く、30年前の中国にタイムスリップしたような錯覚さえ覚えた。 |
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空港から20分ほど進むと、道路両側に20階ほどの高層住宅が林立し、運転手が「新開発特区」と教えてくれた。建物は新しく、完成から間もないと思われるが、ほとんど人の気配がなく、その先で建設中の建物群は工事を中断したのだろうか、中途半端な状態で放置されていた。 これが、うわさに聞く鬼城(ゴ―ストタウン)かと、あらためて中国経済の裏面を垣間見る思いがした。鬼城はもともと人が住まなくなり廃墟となった街をいうが、近年の中国では開発に失敗し未完成のまま放置された町や区域を指す。 投機目的の購入者を期待して農地や平屋建ての住宅地を強引に再開発、高層の集合住宅を建設したものの買い手が付かないまま行き詰まり、鬼城化した事業が全国に広がっていると言われ、蘭州の光景もこのケースのようだ。日本でもバブル崩壊期に同様の混乱が相次いだ。 しかし中国には、もうひとつ別の問題がある。地方政府に対する中央政府の評価が、GDP(国内総生産)値をどこまで引き上げたかに重点が置かれるため、多くの地方政府が農民から強制的に土地を接収し、高層住宅やショッピングモールを建設することで一時的にGDP値を上げる手法を採っているというのだ。結果として小規模な農民暴動が年間、数万回も発生していると聞く。 地方政府が水増しした統計数字を発表する背景にはこんな事情がある。現首相の李克強氏も遼寧省党委員会書記時代の2007年に「中国のGDPは人為的な数字で当てにならない」と語った、と報じられている。各国が、中国政府が公式発表する経済成長率を信用しないのも、このためだ。 鬼城の増加は、様々な要素が絡み合った結果であろう。今回の蘭州訪問は、「笹川医学奨学金進修生同学会(同窓会)」が現地で行う医療研修会と貧困地域でのボランテア診療を視察するのが目的だった。豊かな沿海地域の大都市に住む医師が多く、筆者と同様、鬼城化した開発特区の現状にショックを受けたようだ。 同学会に関しては2013年5月号の本欄で触れており詳細は省くが、会員は現在2300人。中国の医師数は全国で150万人といわれ、人数的には小さな存在だが、抜群の信頼で中国医学会の中核を占め、集会や結社の自由がない中国で、中国政府も認める特異な団体として活動している。 奨学制度は1987年のスタート。多くの苦労を乗り越え、30年近い努力の結果、現在の姿になった。中国には長い歴史の知恵と13億人を超す民、広大な土地と豊富な資源がある。穏やかな発展の先にこそ、習近平国家主席がいう「中華民族の偉大なる復興」がある。 近年の中国の動きは、いささか拙速すぎないかー。大黄河の悠久の流れを前に、ふと、そんな思いがした。 |

9月初旬、四半世紀振りに中国西北地域、甘粛省の省都・蘭州を訪れた。かつてはシルクロード要衝の地として栄え、現在は石炭、石油化学を中心に中国10大工業都市の一つに数えられている。
