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2012年06月29日(Fri)
【論点】ミャンマー民主化 少数民族 貧困解消カギ
(読売新聞【論点】2012年6月29日掲載)

日本財団会長 
笹川 陽平 

 世界が注目するミャンマーの民主化は少数民族との和解と統一なくして進まないー。軍政時代から取り組んできた支援活動を通じた実感である。そんな中、日本政府から「ミャンマー少数民族福祉向上大使」の委嘱を受けた。長年、米国を中心にした経済制裁に同調してきた政府もODA(政府開発援助)の復活など積極姿勢に転じつつあり、大使委嘱は政府と民間の新たな協力の在り方として評価したい。
 人口5000万人、90%が敬虔な仏教徒であるこの国には約70%を占めるビルマ族のほか100を超す少数民族が住む。多くは国境近くの山岳地帯で暮らし、一部武装勢力との長い内戦が今も続いている。

 昨年末、ミャンマーを訪問、テイン・セイン大統領、民主化運動の指導者アウンサン・スー・チー氏と会った際も、少数民族問題が話題の中心となった。小学校建設や富山の置き薬制度を活用した伝統医薬品の普及、地雷被害者に対する義足支援など日本財団の事業を紹介すると、スー・チー氏は「和平を実現するためには、まず少数民族の貧困を緩和しなければならない」と一層の協力を求めた。

 日本財団は2000年度から3年間、カンボジアでも100校の小学校を建設した。その前年に来日したフン・セン首相から学校建設の要請を受けた際、私は建設地を内戦の影響が色濃く残る旧ポル・ポト派支配地域にしたいと申し入れた。国は首都プノンペンはじめ都市部の復興を急がねばならず、反政府地域の復興が遅れれば格差がさらに拡大し統一も遠のく。誰もが望む子供の教育の場をいち早く整備し政府に対する理解を進めるのが狙いだった。一定の役割を果たせたと自負している。

 ミャンマーでも同じ考えで支援事業を拡充する。学校建設では少数民族州であるシャン州の200校に続き、宗教対立が激化するラカイン州でも200校の建設に着手する。山間の麻薬密造地域では、ケシ栽培の代わりに薬草栽培やアフリカの農業育成で培った陸稲技術の普及を目指す。特に薬草は全量を伝統医療の原料に買い上げ、少数民族地域の生活向上につなげたい。地元医師会の協力で無医村地域の巡回診療などにも取り組む予定だ。

 最大都市ヤンゴンや新首都ネピドーでは、民主化に伴う外資の進出で外国人の姿が目立って増え、周回遅れだった日本企業の進出も本格化してきた。民主化を後退させないためにも必要な施策を迅速に実行し、中央政府に不満と不安を持ってきた少数民族に民主化の果実を目に見える形で実感させることが何よりも必要である。

 少数民族問題の解決なくしてミャンマーの真の統一はなく、統一が実現しなければ民主化も実現しない。各国の注目はとかく日の当たる経済支援やインフラ(社会基盤)整備、投資の拡大などに集まりがちだが、最重要の課題は少数民族問題の平和的解決と全民族が参加した国づくりにある。官民挙げて、その実現に協力することが新たな日本外交の確立にもつながる。
タグ:ミャンマー
カテゴリ:世界




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