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2015年09月04日(Fri)
障害者の平等な社会参加にはリーダーの育成が急務!
(リベラルタイム 2015年10月号掲載)
日本財団理事長
尾形 武寿


Liberal.png日本財団は海外活動の重点を社会課題の解決に置き、障害者支援をその柱の一つにしている。
ASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国を対象にした「障害と公共政策サイバー大学院」(IDPP)事業もその一つ。8月3日、マレーシアのクアラルンプールで年次理事会が開催され、筆者も出席した。
2011年度のスタートで歴史は浅いが、「障害者自らがリーダーシップをとって、障害者を支える社会を構築するための人材育成」を目指す。

視覚、聴覚障害や肢体障害はそれ自体が障害なのではなく、適切な環境が整備されていないために障害者の立場に置かれているのだ。障害者の社会参加を促進するためにも、障害者政策の立案や関連法の改正に直接関与できる人材を障害者の中に育成することが急務、というのが基本的考えだ。

理事会で筆者は「アジアを含め多くの国で現在も、法律や政策に障害者の声が十分反映されていない実態がある。状況を変えるには、政策決定に携わる資質を備えた障害当事者の育成こそ必要」と訴え、IDPPの名誉学長を務めるスリン・ピッツワンASEAN前事務局長も「IDPPは、これまで見落とされていた重要な問題に光を当ててくれた。ASEANにとって非常に意義深いプログラムだ」と日本財団の取り組みを高く評価してくれた。

一言で人材育成と言っても難問は多い。障害のある学生が通学や海外留学をするには物理的な制約もある。このため事業ではオンライン教育を前提に検討を進めた。

この分野では、アメリカ・ワシントンDCのアメリカン大学が先行して専門的、実践的な人材育成に取り組んでおり、取りあえず同大学の協力を得てスタート。同時にASEAN地域内の20大学と4専門機関が参加するネットワークを立ち上げ、講義を受講し所定の単位を取得した大学院生に、所属大学から修士号を授与することにした。

すでに1期生、2期生のうち8人が学位を取得、WHO(世界保健機関)等で活躍しているほか、新たに5人がマラヤ大学(マレーシア)で受講中。近くフィリピンの大学院生ら15人も参加の見通しだ。

ASEAN地域では、評価の高い上位30大学が独自にASEAN大学ネットワーク(AUN)を形成し、教育分野で大きな影響力を持つ。今後、IDPPをこのサブネットワークに位置付けることで信頼を一層、高めるべく、関係者との協議を進めている。

ASEANの人口は現在6億2千万人。何らかの障害のある人は約9千万人に上ると推計され、経済発展の中で、障害者の平等な社会参加をどのように実現していくか、今後、ますます大きな課題となる。

平等な社会参加の実現には、公共政策に障害者の目線が反映されることこそ必要。IDPPが教育機関だけでなく研究機関として、「障害と公共政策」の共同研究を進めるプラットホームの役割を果たすことも必要となる。

現実にASEAN諸国では、政策決定に携わることを可能にする資格を修得できる場は限られており、そのためにも受け皿となるパートナー大学の一層の拡大も欠かせない。

障害者関連施策は国内の体制整備も緒についたばかり。障害者の人権や社会参加の実現に向けた世界の動きは一層の高まりを見せている。「民」としてのささやかな取り組みではあるIDPPが、やがて大きな花を咲かせる日が来ると密かに期待している。(了)




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