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2015年08月03日(Mon)
子供が家庭で育つために妊娠相談窓口が果たす役割とは
助産師団体の国際的な集会でセミナー開催

世界の助産師や看護師が参加するICMアジア太平洋地域会議・助産学術集会が7月20日から3日間、横浜市のパシフィコ横浜で開かれ、日本財団は「子供が家庭で育つために妊娠相談窓口が果たす役割とは」と題してセミナーを開催。今までに1万件以上の妊娠相談を受けたとして知られる田尻由貴子さんが講演し、自らの経験を踏まえながら、助産師が果たすべき役割と可能性について語った。

昼食時にもかかわらず、会場には多数の参加者が集まった
昼食時にもかかわらず、会場には多数の参加者が集まった

セミナーは、正午からのランチョンセミナーとして実施。1000人を収容できる会場には約700人が訪れ発表に耳を傾けた。外国人の参加者も多く、同時通訳機を片手に日本の状況について理解を深めた。

田尻さんは、親が育てられない子供を受け入れる「赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)」で知られる慈恵病院(熊本市)の元看護部長・相談役。「妊娠に常に寄り添っている助産師さんにぜひ聞いてほしいと思います」とあいさつしたうえで、自治体の事業としての妊娠SOS相談の窓口は、全国で約20か所設置されている(日本財団調べ)ことなどを説明し、慈恵病院の事例などを紹介した。

田尻由貴子さん
田尻由貴子さん


田尻さんによると、慈恵病院は2007年度から昨年度までの8年間で、全国から9248件の相談を受けつけた。相談者の年齢は20歳代(45%)と30歳代(26%)が全体の3分の2半数以上を占めたが、15歳未満も67人にのぼり、最年少は小学5年生だった。相談内容のうち、「思いがけない妊娠」が25%で、その内訳は「未婚の妊娠」(655人)が最も多く、「若年妊娠」(323人)などが続いた。

「いのちが救われた事例」として、田尻さんは、妊娠や養育に葛藤している相談(3520件)の“その後”を報告。話に耳を傾けるなどして支援した結果、326件が「自分で育てる」ことを決断し、235件が「特別養子縁組」を選び、38件が「乳児院一時保護」とし、計599件の命を救うことができた。また、緊急時の相談として、独りで自宅出産したばかりという女性からの電話を例に挙げ、病院に行くよう促したものの頑なに拒否する女性に対し、信頼する団体のスタッフに自宅に行ってもらい、新幹線などを使って慈恵病院まで来たところを母子ともに保護したこともあった、と話した。こうした経験を踏まえ田尻さんは、相談を受けるときに「傾聴する」「共感する」「親身になる」「寄り添う」「責めない」という5点を大切にしていると付け加えた。

多くの参加者が昼食をとりながら講演に聴き入った
多くの参加者が昼食をとりながら講演に聴き入った


田尻さんは、全国的に相談対応件数が増加している児童虐待についても触れた。虐待により1週間に1人が死亡している計算になること、被害者の半数を0歳児が占め、月齢内訳を見ると0か月が実に48%に上っていること、加害者の91%が実母で、その半数は望まない妊娠をしていたとする統計も報告した。

田尻さんは「こういう実情を助産師さんは受け止めてほしい」と話し、母子の幸せのために、妊娠中から相談を受け付けることの大切さを改めて強調した。また、子供が家庭で養育されることにつながる特別養子縁組の視点をもって相談にあたることや、さまざまな関係者・団体とのネットワークを作っていくことの重要性を訴えた。

田尻さんは、慈恵病院での取り組みを取材したテレビ番組の一部を流し、特別養子縁組を選択したある実母と養親がどのような気持ちで新しい命を迎えたのかを紹介しながら講演を終え、会場からは大きな拍手が寄せられた。

日本財団の活動を紹介する高橋恵里子・福祉特別事業チームリーダー
日本財団の活動を紹介する高橋恵里子・福祉特別事業チームリーダー


セミナーでは、田尻さんの講演の前後に日本財団からの発表もあった。冒頭は、高橋恵里子・ソーシャルイノベーション本部福祉特別事業チームリーダーが、特別養子縁組の意義や、その普及を目指す日本財団の取り組みなどを紹介し、終盤は、助産師でもある赤尾さく美・特別養子縁組事業企画コーディネーターが田尻さんの講演を受けてコメントした。

コメントを述べる赤尾さく美・特別養子縁組事業企画コーディネーター
コメントを述べる赤尾さく美・特別養子縁組事業企画コーディネーター


赤尾コーディネーターは、今年2、3月に日本財団が全国の自治体などを対象に行った妊娠SOS相談窓口に関するアンケート調査の結果を発表し、課題として相談員の知識、資質、地域・全国との連携の3点が浮かび上がったこと、助産師や保健師が社会福祉の知識も持って相談を受けなければ実質的な支援につながりにくいことが分かってきたことなどを報告。妊娠SOS相談窓口が全国で20数か所にとどまっている実情については、「既存の産婦人科外来、保健所、学校の保健室、児童相談所などは看板を掲げていなくても妊娠相談を受け付ける窓口」としたうえで、「そのような施設で働かれている方には、これから作成する妊娠ガイドブックを活用していただけたら嬉しい」と呼びかけた。(益田美樹)


words.png【特別養子縁組】何らかの事情で産みの親の元で暮らすことができない子供に永続的な家庭を提供するための、子供の福祉を目的とした制度。1987年の民法改正により、従来の養子縁組制度(普通養子縁組)に加えて導入された。普通養子縁組との主な違いは、産みの親の親権が終了すること、戸籍上の表記が養子・養女ではなく実子と同じになること(長男・長女など)、原則として子供の年齢が6歳までしか認められないことなどがある。







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