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2015年07月14日(Tue)
【正論】世界が結束して海の総合管理を
(産経新聞【正論】2015年7月14日掲載)


日本財団会長 
笹川 陽平 


seiron.png野放図に流れ込むゴミや汚水、乱獲による水産資源の枯渇、気候変動・温暖化に伴う海面温度の上昇や海水の酸性化・・。海の環境が一段と悪化している。

人類は海を自由に利用することで発展してきた。しかし、このまま環境悪化が進めば、人類の危機につながる。国際社会は今こそ結束して、次世代に持続可能な海洋を引き継ぐ態勢を整えなければならない。
漁獲量40〜60%も減少


今年5月、東京都内で開催された「島と海のネット」の国際会議。太平洋の島嶼国キリバスのアノテ・トン大統領は「海洋環境の悪化・海面上昇に伴って、長く住み慣れた祖国から『名誉ある撤退』を余儀なくされる日が来るかも知れない」と述べた。

地球環境、とりわけ海の変化は地域差が大きい。この国が位置する赤道周辺の熱帯海域は最も変化が激しく住民の不安も強い。

地質がもろいサンゴ礁からなる島の多くが水没の危機に直面し、温暖化の影響といわれる巨大台風も発生している。2013年11月、フィリピンを襲った台風ヨランダは90メートルに達する最大瞬間風速と4メートルもの高潮で、レイテ島などの住民6千人の命を奪った。

水産資源も然り。乱獲などで漁業資源の70%が危機的状況にあり、世界全体の漁獲量も5〜10%減少している。熱帯海域の減少幅はこれに比べ、さらに高い。50年の商業魚種の漁獲量は現在に比べ40〜60%も減るというのだ。

日本財団が4年前から世界の7つの大学・研究機関と共に取り組む「海の未来を地球規模で予測する」プログラムによると、広大なこの海域は規制も弱く、もともと乱獲による影響が大きかった。

加えて温暖化による海面温度の上昇、さらに海が二酸化炭素など温室効果ガスを取り込み海水の酸性化、酸素濃度の減少が進むことで、貝類が殻を作る能力や植物プランクトンの発生率が低下。一方で魚は、それぞれに適した海水温とプランクトンを求めて冷たい水域に徐々に移動し、熱帯海域の魚が急速に減る結果を招いているという。


共有されていない危機感


30年以上、海の問題に携わってきて、陸の問題に敏感な国際社会の海に対する反応があまりに鈍いのに、しばしば驚く。17世紀のオランダの国際法学者グロティウスが唱えた「海洋の自由な利用」の時代は「疾(と)うの昔」に終わっているのに、海に対する危機感が世界で共有されているとはとても見えない。

当時、10億人に満たなかった世界の人口は今や70億人に膨れ上がり、半世紀後には100億人(国連推計)に達し、水産資源に対する世界の需要は今後も確実に伸びる。既にマグロなど人気の高い大型魚の不足も目立つ。

国際連合食糧農業機関(FAO)によると、世界の漁獲量は大戦後、5倍近く伸び、20世紀末で約9千万トン。その後は大型船の導入など近代化が図られたものの漁獲量は横ばい状態にある。

替わって養殖魚が同程度にまで増えているが、食としての安全性や、マグロを例にとると、出荷できるまでに、その体重の10倍、20倍ものサバやイワシが飼料として必要となり、貧困層の食の確保を一層難しくする、といった指摘もある。養殖だけで水産資源の落ち込みをカバーするのは難しいと思われる。


「海洋国家」日本が先頭に


日本ももちろん大きな影響を受ける。わが国の水産資源の消費量は12年現在817万トン、世界の10%弱を占めるが、自給率は58%にとどまる。10年ほど前まで世界一だった一人当たりの消費量も減少傾向にあるとはいえ、依然、世界のトップクラスにある。

海の変化に伴って、恐らく近海の漁場も大きく変わる。前述の海の未来予測プログラムでは、30年後の日本のすし事情を、ヒラメやマグロ、赤貝などは品切れ、逆にサバやスケトウダラは、おすすめ品になると予測している。

さまざまな要素が複雑に絡み合い、解決策を見出すのは確かに難しい。しかし海がこれ以上の負荷に耐えられないところまで来ているのも間違いない。

世界の国々が地球環境全体を視野に、水産資源の保存・確保、温暖化防止に一致して取り組まない限り、海の未来は見えてこない。近年、夏場の海氷面積が大幅に減少し、新たな航路が現実化しつつある北極海も決してその例外ではない。

わが国は漁業資源の開発や温暖化防止など海の再生に向けた豊富な知見と技術を持つ。何よりも海に守られ発展してきた国として、国際社会で積極的な役割を果たす責任がある。

海洋政策を一元的・総合的に実施する目的で制定された海洋基本法も、十分に活用されているとは言い難い。今月20日には制定から20周年目の「海の日」を迎える。海洋基本法で総合海洋政策本部の本部長の立場にある安倍晋三首相には、ぜひ、海を守る各国の先頭に立っていただきたく思う。(ささかわ ようへい)
タグ:正論 海洋
カテゴリ:正論





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