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2015年03月24日(Tue)
六本木ヒルズに響く文楽の音色
組み立て式舞台による野外公演

日本が誇る伝統芸能の人形浄瑠璃「文楽」の魅力を広く知ってもらうため日本財団が進めている野外の「組み立て式舞台」による初公演が3月19日、東京・六本木の六本木ヒルズで4日間の日程で幕が落とされた。高層ビルが立ち並ぶモダンな街の空間に響く伝統芸能の音色。飲みながら、食べながら舞台を見る300人の観客は、情感たっぷりな物語に引き込まれた。

六本木ヒルズで文楽上演
六本木ヒルズで文楽上演

舞台が設えられたのは、屋外イベント広場のヒルズアリーナ。幅19メートル、高さ6メートルの組み立て式で、回転式の大夫座、人形遣いが立つ舟底もある本格的な造りだ。演目は舞台披(ひら)きにふさわしい「二人三番叟」と、道成寺物の名作「日高川入相花王 渡し場の段」の2本。出演者は日本芸術院賞などに輝く人形遣いの吉田玉女さんをはじめとした一線級の顔ぶれ。玉女さんは4月に人間国宝だった師匠の名跡「玉男」を襲名することになっており、玉女としては最後の舞台となる。

「二人三番叟」を操る吉田玉女さん
「二人三番叟」を操る吉田玉女さん


演目が始まる前に、「ショートトーク」で作家の林望さんが文楽の魅力、歴史を解説。「文楽を含む伝統芸能は国民のアイデンティティーだ。若い人にもしっかりと引き継ぐ必要がある」と語った。公演期間中、元NHKアナウンサーの葛西聖司さん、料理評論家の山本益博さんもショートトークを行った。

文楽の魅力を紹介する林望さん
文楽の魅力を紹介する林望さん


ご祝儀舞の「二人三番叟」。語りの太夫は豊竹英大夫さんら、玉女さんが人形の主遣いとなって五穀豊穣の祈りを表す種まき、実りなど稲作の様子を鈴を振りながら軽やかに、ユーモアたっぷりに操ると、観客からも笑い声が起きた。

「二人三番叟」で幕開け
「二人三番叟」で幕開け


幕あいには、初めて文楽を鑑賞する人のため太夫の語りと、三味線のバチさばきによる表現について出演者から解説。客は床机に腰掛けて上演中でも弁当を食べ、酒を飲みながらゆっくりと鑑賞できる。田舎の「村芝居」のような雰囲気で、舞台との距離が一層近くに感じられる。一番前に座った女性の3人グループは千葉から来たという。3人は異口同音に「文楽を見るのは初めて。ネットで調べたら六本木で文楽という組み合わせに興味が惹かれた。チケットも断然安い」。

床本(台本)を示して大夫の語りを説明
床本(台本)を示して大夫の語りを説明

観客は自由に飲食できる
観客は自由に飲食できる


「日高川入相花王」は和歌山・道成寺の安珍と清姫の物語。「渡し場の段」は恋しい安珍を追った清姫が向こう岸に渡ろうとするが、安珍に言い含められた渡し守に拒まわれ、大蛇に変身する有名な場面だ。清姫の娘の首が瞬時に蛇に変わる。「ガブ」と呼ばれ恐ろしい形相で大波の中を泳ぐ動きの激しさ、太夫の物狂おしい語り、三味線の合奏の重厚さが清姫の執念を描きだし、観客を圧倒する。

安珍を慕う清姫
安珍を慕う清姫
一転大蛇に変身
一転大蛇に変身


清姫の安珍を思う情感あふれる太夫の語りが、次第に嫉妬に狂う大蛇の情景を描くのを、身じろぎせずに聴き入っている女性がいた。喜多川保延さん(28歳)。新内喜多川流の若い家元だ。2012年に祖父から家元を継承した。「新内でも渡し場の段を歌います。文楽とも共通するものが多く、さらに新内の芸を磨いていきたい」。伝統芸の技が芸域を超えて広がっている。

日本財団は昨年、世界無形文化遺産にも登録されている文楽の価値を再認識してもらおうと「にっぽん文楽プロジェクト」を旗揚げ。1億円を掛けて奈良・吉野から切り出したヒノキ材を福岡県筑紫野市に運び、宮大工の手で文楽専用の移動式の組み立て舞台を完成させた。

唐破風の屋根の舞台 1日半で組み立てた
唐破風の屋根の舞台 1日半で組み立てた


今回の六本木ヒルズでの公演を皮切りに2020年をめどに年2回、全国各地を巡演しながら文楽の魅力や価値を発信していく。(花田攻)




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