2015年01月08日(Thu)
女川の水揚高が震災前を上回る マスカーがフル稼働 魚の町復権へ
赤いマークがくっきりと浮かぶ 寒風の中、白壁に赤い円のマークがくっきりと浮かび上がる。三陸有数の漁業基地、宮城県女川町に中東の産油国カタールが日本財団の協力で建設した大型冷凍冷蔵施設「マスカー」。2年余りたった今、水産加工の中核施設としてフル稼働している。東日本大震災で受けた壊滅的な打撃を乗り越え、マスカーの活用により魚の水揚げが回復。「魚の町」女川の復権に向けて浜は活気づいている。 |
フォークリフトで運びこむ フォークリフトが箱詰めになったサンマを運び入れる。マスカー2階にある零下30℃の冷凍室。肌に冷気が突き刺さる。訪れた年末は「爆弾低気圧」が北海道に居座わった日で、魚の入庫はほとんどなかったが、4つある冷凍室には主力のサンマやギンザケ、サバなど約2000トンが積み上げられていた。 水産物が積み上げられた冷凍庫 マスカーは貯蔵能力が6000トンだが、現在は実質的に2000〜3000トンの受け入れが限度だという。マスカーを運営する女川魚市場買受人協同組合副理事長の石森洋悦さんは「風評被害などで取引量はまだ小さい。パレットは5トン単位で入出庫するのが、今は100キロ単位で動くので冷凍室の活用が不効率となっている」と説明する。 マスカー本来の貯蔵能力を高めようと、道路を隔てた隣接地の水産加工団地で、加工工場建設のつち音が響いている。進出予定12社のうち本年度内に5社が完成、残る工場も来年度には操業を開始する予定だ。「各工場はサンマ、サバなどの主原料をマスカーに保管し、小さい単位の加工品は自前の小型冷凍庫で保管することになる」。石森さんは2016年からがマスカーの本格スタートだと期待する。 もう1つ建設中なのが全国初のPFI(民間資金活用による公共施設整備)方式による水産廃棄物処理施設。加工団地から出る廃棄物を一手に処理する。石森さんは「公的機関が処理するので違法な排水はなくなる。女川の海をきれいにすることが観光資源ともなる」と話す。 マスカー効果を語る石森さん マスカー効果が顕著に表れたのは、女川の水揚高だ。2014年の4月〜12月上旬で81億円を記録し、震災前の2010年の77億円を既に上回った。カツオ・マグロの一本釣りや海外巻き網などがほとんどマスカーに入庫。主力のサンマは2万4000トンと昨年の2倍となり目標を達成した。「鮮魚で出荷する以外でも引き受ける施設があるから、どんどん買い受けることができる。漁業再生に大きく寄与した」と石森さんは指摘する。町では増加する水揚げに対応するため、貯蔵能力3000トンの新たな大型冷凍施設を14年度内に着工する。 世界から大学生が集まり町づくりで議論 写真提供:Bizjapan 「マスカーは水産施設だけでなく町のシンボルだ」と石森さん。瓦礫の中でいち早く立ち上がったマスカーは町の人に勇気を与え、町づくりの新しい考え方の起点となった。13年のグッドデザイン賞を受賞した建物のコンセプトは、津波を受け流すという斬新な発想だ。国内外から多くの視察者が訪れる。昨年12月には世界中の大学生50人が集まり、町づくりについて議論した。今年はハーバード大学ビジネススクールと東京大学の学生が意見交換会をマスカーで開催する。 女川湾背後の山が削り取られる 女川の町づくりの特徴は、民間と町が一体となって進めている点だ。両者が出資して「女川みらい創造会社」を設立し、来年3月にオープンする石巻線女川駅前にテナント型の商店街を建設する。石森さんは「世界中からテナントを募集する。女川の魅力を世界に発信したい」と意気込む。 町には女川の魅力に触れ、外からも若い人が移り住み再生に取り組んでいる。「復幸まちづくり女川合同会社」もその1つ。水産加工物のブランド化や販路拡大を目指している。こうした若い人の相談役的な役割をしてきたのが石森さん。「マスカーの町づくりとしての役割は終わったようだ。これからは水産品の保管庫としての本来の役割に戻っていく」と笑顔で話した。 町全体で進むかさ上げ工事 人口当たりの死亡率が最も多かった女川。町を貫く国道389号を5.5メートルかさ上げする工事が真っ最中だ。この国道を防潮堤として海側に産業施設、反対側の高台に住宅街を建設する。再び津波が襲ったら工場を失うかもしれないが、どこからでも海が見えるという当たり前の生活を送ることを選んだ女川町民。この風景を生涯維持していこうとする町の人の矜持が胸に響いた。(花田攻) |