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2015年01月05日(Mon)
「少しでも長く自宅で」 スウェーデンの先進介護
(リベラルタイム 2015年2月号掲載)
日本財団理事長
尾形 武寿


Liberal.png 二〇一四年十一月、スウェーデンのストックホルムを訪れる機会があり、福祉が最も進んでいるといわれるこの国の高齢者支援施設を視察した。

 訪れたのは市の中心地から車で二十分ほどの郊外にある民間介護施設「Villa Agadir」。コの字型に並んだ三階建ての建物に、計五十四戸の老人ホームが設けられ、明るい室内は老人ホームというより洒落たワンルームマンションの雰囲気。
 キッチンやシャワールーム、介護用ベッドは備え付け、これ以外のソファーやカーペット、椅子や壁の絵画などインテリアは入居者の持ち込み。案内の係員は「入居が決まると家族も交え、入居者のこれまでの生活や好きなもの、嫌いなものを詳しく調べ、それまでの生活と変わらない環境の提供を目指している」と語った。

 この国では一九五〇年代から高齢化に対する取り組みが始まり、国が福祉のガイドラインを作り、県が医療、市町村が福祉サービスを担当する。目標は、誰もが少しでも長く自宅で生活する福祉。この中で「知的障害者も住み慣れた場所で家族とともに、他の市民と同じ条件で普通の生活をする権利がある」といったノーマライゼーションの考えも普及した。

 同国は一三年で見ると、在宅ケアを受ける高齢者は二十二万人、施設でケアを受ける高齢者は半数以下の八万九千人。結果、多くが自宅で最期を迎え、施設や病院で息を引き取る人は全体の30%前後、八五%が病院や老人ホームなど施設で息を引き取る日本とは大きく異なる。

 日本財団は過去、老人福祉施設の建設に取り組み、一九八〇年代には全室個室型の特別養護老人ホームを長野、岐阜、島根に建設、当時は「贅沢」との批判も受けた。いまでは国が建設する施設もほとんどが個室型となっており、正しい選択だったと思う。

 しかしスウェーデンの現状を見ると、「これではいけない」と考えざるを得ない。この国では高齢者介護施設の入居者一人に付き日本円で月約六十万円の費用が掛っているが、本人負担は約二万六千円が上限、残りは公費で賄われる。日本で同じサービスを受けようとすれば、数千万円の入居金、月々数十万円の生活費を払い民間の有料老人ホームに入るしかない。

 高齢者の一〇%が子供の家から一〇〇m以内で生活するといった日本とは異なる生活環境もある。結果、九十歳を過ぎてから入居する人が多く、入居者の平均年齢は九十二歳、入所期間も平均二年と短い。

 手厚い公費負担の背景には最低でも三〇%程度の所得税、二五%の消費税がある。日本の所得税は所得金額によって異なるが最も多い年収二百〜七百万円の税率は一〇〜二〇%、消費税は八%にとどまる。

 WHO(世界保健機関)の統計によると、二〇一三年、スウェーデンの平均寿命は女八十三・七一歳、男八十・〇九歳、日本より一歳以上短い。六十五歳以上の高齢人口も日本の二五・一%に比べ一八・二%とこちらも低い。百歳以上の高齢者が一万人を超え、世界一の老人大国である日本の対策の方が遅れを取っていることになる。

 筆者は昨年十一月満七十歳の誕生日を迎えた。WHOは六十五歳以上を高齢者、六十五〜七十四歳を前期高齢者、七十五歳以上を後期高齢者と定義している。

 周りを見ると、気力、体力、能力を持ち合わせた高齢者はいくらでもいる。この際、高齢者の定義を「七十歳以上」に改め、年金の受給年齢も大幅に遅らせたらどうか。そうすれば国家財政も改善でき、恐らく税収は増え、医療費は抑制される。

 訪問した当日は、たまたまホームに入居中の老婦人の誕生祝いが行われていた。精一杯に着飾り、屈託のない笑顔を見せる婦人を見るうち、そんな“暴論”がふと頭をよぎった。(了)





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