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2014年10月20日(Mon)
【正論】変革の時代に異才の発掘を急げ
(産経新聞【正論】2014年10月20日掲載)

日本財団会長 
笹川 陽平 


seiron.png 「ギフテッド」(Gifted)という言葉がある。日本ではなじみが薄いが、欧米では神から贈られた極めて高い能力、あるいは先天的にこうした能力を持つ人をいう。社会にイノベーションを起こすのは恐らくこういう人たちだろう。発明王エジソンやアップル社の創設者でiPhoneなどを生み出したスティーブ・ジョブズはその代表だと思う。

 過日、DVDで見たジョブズの伝記映画は「規則を嫌い、現状をよしとしないハミ出し者や問題児こそ、世界を変え人類を前進させる」とのジョブズの言葉で最後を締めていた。

 急速に社会変革が進むこの時代、わが国にも隠れたエジソンやジョブズは必ずいる。そんな思いでこのほど東京大学先端科学技術研究センターと協力して「異才発掘プロジェクト ROCKET」を立ち上げた。
多様な人材育成が不可欠

 調和の取れた画一的な教育が日本の特徴だが、変革の時代には多様な教育制度による多様な人材が欠かせない。ささやかな実験的試みだが、将来の学校建設も視野に新しい人材育成モデルとして育てたく決意を新たにしている。

 いささか乱暴だが、ギフテッドに対する欧米と日本の取り組みの違いは狩猟民族と農耕民族の違いのような気もする。狩猟民族には集団を引っ張る強いリーダーが欠かせない。ギフテッド教育でも早期入学や飛び級、小中学生に対する大学講義の開放など、「個の独立」に向け積極的な育成策が数多く導入されている。

 対する農耕民族では、全体の「和」が優先される。個の自立より全体の調和、協調を重んずるのが日本教育の特徴で、“全員100点”を理想とする「結果の平等」と、個々の能力の育成を重視する「機会の平等」が長年、戦わされてきた。しかし2年間の高校在籍後、大学進学を認める飛び級制度以外に特段のギフテッド教育は見当たらない。

不登校の中に埋もれた才能

 IQ(知能指数)によるアプローチも、70以下の子供に特別支援学級が用意され、現在、国公私立の小中学校に10万人を超す児童、生徒が在籍するが、「高い子」に対する特別学級は用意されていない。民間の受け皿や支援態勢にも、欧米と日本では格段の差がある。

 加えて特異な個性や能力を持った子どもには頑固で自分本位、他人の話を聞かない、といった傾向がある。ジョブズは興味のない科目の履修を嫌って半年間で大学を中退し、完璧主義者として仲間としばしば衝突した。エジソンは小学校に入学すると教師に「Why」を乱発、「ほかの生徒たちの迷惑になる」と3ヶ月で放校処分になった。

 協調性を重んじる教育が戦後の日本の復興、高度成長に大きな力を発揮したのは間違いない。能や茶道のような形の美しさを尊ぶ文化もある。しかし猛烈な勢いで社会変革が進むこの時代、画一的な教育の中で育った優等生だけでイノベーションを起こすのは難しい。

 現在、全国の国公私立の小中学校で約1%に当たる12万人が不登校となっている。友人関係や親の過剰期待などさまざまな原因があり本格的に分析したデータはないが、突出した才能を持ちながら学校になじめず不登校になった子供がこの中に多数いるのは間違いない。

 プロジェクト立ち上げ後、東京、神戸、福岡など全国5カ所で説明会を開催したところ、不登校の子供や親から800件を超す相談があった。

 学校への不適応の理由は「極めて高い能力を持つが何故か字が書けず自身を失っている」、「自分の関心・興味のあることしかやろうとしない」、「授業中、好き勝手をして集団に入れない」、「コミュニケーションができない」、「こだわりが強く融通が聞かない」などさまざま。中には知能検査でIQが150を超えた子もいた。

 プロジェクトのディレクターを務める東大先端研の中邑賢龍教授も「学校教育に適応できないような能力の中にこそ将来のイノベーションを可能にする才能が含まれている」と見る。

教育こそ国づくりの要だ

 応募は約600人。最終的に10人程度を選抜、常設の教室を設け、大学卒業まで各領域のトップランナーによる授業やオンラインによる基礎科目の配信などを行い、それぞれが持つ特異な才能を伸ばしたく考える。

 今月7日、青色発光ダイオード(LED)を開発した日本人研究者3人のノーベル物理学賞受賞が決まった。LEDはろうそく、電球、蛍光灯に次ぐ第4世代の光として社会に大きな変化をもたらしている。

 教育こそ国づくりの要である。本プロジェクトが国の教育制度に組み込まれ、社会を動かす偉大な才能が現れる日に向け、取り組みを強化したい。そのためにも多くのご意見、ご批判をいただきたく考える。





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