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2014年07月14日(Mon)
【正論】「海の日」を前に再度提案する
(産経新聞【正論】2014年7月14日掲載)


日本財団会長 
笹川 陽平 


seiron.png 今年も21日に「海の日」を迎える。これを前にふたつの提案をしたい。ひとつは7月の第3月曜日となっている海の日の固定化、もうひとつは懸案の初等中等教育における海洋教育の強化である。

日定め首相が世界に声明を
 ともに「海洋国家日本」の存在に関わる問題であり、特に「海の日」に関しては日を定め、総合海洋政策本部長である首相が、海の平和を守る声明を世界に発信されるよう求める。それが国際社会における日本のプレゼンスを高める結果にもなる。
 国土交通省によると、海の日は世界の多くの国が設けているが、日本のように国民の祝日にしている国はない。1996年の施行以来7年間、7月20日に固定されていたが、2003年からハッピーマンデー制度の導入で第3月曜日に変更された。

 海の日の意義より連休づくりが優先された形で違和感が残る。日本の祝日は17日もあり、連休も多い。海の日を特定の一日に定め、首相が力強いメッセージを出せば、国民の受け止め方を前進させるきっかけにもなる。

 一方の海洋教育の強化。昨年1月の当欄でも、海に囲まれ大きな恩恵を受ける海洋国家として、07年に制定された海洋基本法や翌年の海洋基本計画で、学校教育での海洋教育の推進を謳(うた)いながら、改善が進まない現状を「画竜点睛(がりょうてんせい)を欠く」と指摘、改善を求めた。

 現状は小学4年の理科と5年の社会に「海」が断片的に記されているものの、一昨年、東京大学、海洋政策研究財団とともに行った全国調査では70%が海洋教育という言葉自体を知らなかった。

 かつて盛んだった臨海学校も、プールの普及や安全に対する学校現場の配慮もあって姿を消し、ゆとり教育の中で生まれた「総合的な学習の時間」に、海に関する体験学習を取り込む学校も極めて少ない。これでは「仏作って魂入れず」で、海洋国家に相応しい人材育成は期待できない。

明確な位置付け欠く海洋教育
 学習指導要領で海洋教育が明確に位置付けられていないのが一因で、次の改訂版では海洋教育の強化を明確に打ち出す必要がある。学習指導要領はほぼ10年ごとに改訂され、次期改訂作業は当初17、18年と見られていたが、グローバル化に対応する人材育成の高まりなどで作業を前倒しし、東京五輪が開催される20年の完全実施を目指す方針と聞く。

 現在の学習指導要領は、小中学校が07年、高校が08年に改訂された。海洋基本法や海洋基本計画が制定、策定された年に当たり、その分、海洋基本法や海洋基本計画の目的を中央教育審議会の議論に反映できなかった事情がある。

 今回は文部科学大臣の諮問を受け中教審の議論を経て答申がまとまるまでに十分な時間がある。昨年、策定5年後の見直しが行われた政府の海洋基本計画も、前計画にはなかった学習指導要領の言葉を2度も使い、「学習指導要領を踏まえ、海洋に関する教育を充実させる」「必要に応じ学習指導要領における取扱いも含め、有効な方策を検討する」と積極的な姿勢を打ち出している。

 われわれも学識者を交えた海洋教育戦略会議で、学習指導要領の「総則」に「海洋の教育」もしくは「海洋」を、「総合的な学習の時間」の学習活動の例示にも「海洋の教育」もしくは「環境(海洋を含む)」をそれぞれ明記するよう提言した。

 「海洋」の教科を持つ国は世界にも見当たらない。理科、社会、歴史など、すべての教科に関連する海洋の特殊性からも、学習指導要領で明確な位置付けをしたうえで、各教科や総合的な学習の中で広く「海」を教えるのが目指すべき姿と考える。

 世界の人口は今世紀末にも100億人に達し、漁業資源だけでなく、海中、海底のエネルギー資源や領海、EEZ(排他的経済水域)をめぐる対立と緊張が一層、激しくなる。17世紀オランダの国際法学者グロチウスが唱えた「海洋の自由な利用」はとうの昔に終わり、国際的な秩序と協調の確立が喫緊の課題となっている。

 食糧、エネルギー資源など「母なる海」に対する人類の依存度は一層高まり、海の恵みをひたすら受けてきた海洋国家日本が果たすべき役割も必然的に大きくなる。

海洋国家日本が目指すべき姿
 未曽有の被害をもたらした東日本大震災の大津波は、漁業や水産業だけでなく、伝統文化も海と深く結び付いた地域社会の姿、さらに、海の視点を持たない防災がもはや成り立たない現実を浮き彫りにした。

 過日、文科相経験者4人とお話しする機会があった。英語や日本の歴史、伝統文化などの強化は当然として、海洋教育の一層の充実を図る点で異論はなかった。

 次期学習指導要領では、海洋教育の強化が間違いなく打ち出されると確信する。「海の日」を活用した外交戦略、海洋教育の強化とも海洋国家日本が目指すべき当然の姿であり、国際社会でこの国が負う責務でもある。
タグ:海の日 正論 海洋
カテゴリ:正論





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