2014年05月15日(Thu)
若手研究者358人に助成金 日本科学協会と笹川スポーツ財団
日本財団の支援を受けている日本科学協会と笹川スポーツ財団は4月25日、都内で2014年度の研究助成者を合同で発表した。笹川科学研究助成は321件、助成金額は約2億円。笹川スポーツ研究助成は37件、約2500万円となっている。13年度に助成を受けた研究者の初めての合同発表会も行われ、多彩な分野での研究成果が報告された。
合同で行われた助成者発表会 |
日本科学協会は人文・社会科学と自然科学(医学を除く)を対象とする若手研究者への助成を実施しており、今回の申請件数は1190件、申請金額は約10億3500万円に上った。分野別では生物系が最も多く、応募件数と採択件数は全体の40%前後を占めている。最近のiPS細胞関連の研究分野の広がりを反映して、「再生」をキーワードとした申請の増加が目立っているという。東日本大震災から3年経過したが、震災・防災関係の申請も多く、「災害遺構の保存」などが採択された。同協会の大島美恵子会長は「研究を進めながら分かりやすい言葉で社会と会話する姿勢を持ち続けてほしい」と、社会のつながりの中での活躍を訴えた。
助成者に決定通知書を渡す大島会長=左から2人目 「挑戦的なテーマが求められたと思います」と話すのは助成者の1人、奈良先端科学技術大学院博士後期課程の中尾亜矢子さん。高分子分野が専門で新材料の開発に意欲を示す。 日本のスポーツ振興に貢献する優れた人文・社会科学領域の研究活動を支援する「笹川スポーツ研究助成」。「スポーツ政策」「スポーツとまちづくり」「「子ども・青少年のスポーツ振興」の3分野に本年度は全国から147件の申請があった。採択された中には「2020年東京オリンピック・パラリンピック大会を見据えたスポーツ政策の理念的モデルの検討」(フェリス女学院・和田浩一教授)や「身体という視点から『体罰』問題にアプローチする可能性」(明星大・坂本拓弥助教)など東京五輪を軸に据えたテーマや社会性のある課題が取り上げられている。同財団の小野清子理事長は「スポーツ分野での人文・社会科学での助成は少なく期待は大きい。現場の課題解決につながる有意義な研究を期待する」と呼び掛けた。 決定通知書を渡す小野理事長 来賓として挨拶した日本財団の笹川会長は、福島第一原発事故の半年後に開かれた国際放射線の専門家を集めた放射線と健康の問題に関する国際会議に触れ、「正しい知識を持ってもらうため32人の学者が無制限の記者会見を行い、提言書を日本政府に出した。その中で科学者は専門的な知識を持っていながら優しい言葉で人々に伝える能力に欠けていたと反省している」と触れていることに素晴らしい倫理観があると指摘、「助成者の皆さんも科学者である前に優れた人間であってほしい」と要望した。 挨拶する笹川会長 助成者発表に先立って行われた13年度の研究助成発表会。科学研究助成で14人、スポーツ研究助成では3人が研究成果を報告した。日本のスポーツ界の課題の1つは、女性アスリートが活躍している中で、女性コーチが不足していること。順天堂大学スポーツ健康科学部の町田萌さんは、スポーツを効果的に指導することに対する自信となる「コーチング効力感」に着目。スポーツ指導者328人に調査した結果、同性の指導者から指導を受けた経験や講習会への参加回数など「情報源」へのアクセスが女性では低く、これらが女性コーチの道を狭くしているとして、スポーツ団体などで組織的に取り組むことを提案した。 助成を受けた研究者の成果報告 科学助成ではユニークな発表も。秋田大学大学院博士後期課程の中川健一さんは、バドミントンシャトルコックの飛行特性を発表した。シャトルコックのスマッシュ直後の初速は時速300`(秒速83b)に達し、全球技中で最も早い初速で知られている。これが相手コートに届く0.6秒後には秒速7bにまで減速する。半球状の形のコルクに、水鳥などの羽が隙間が出るように固定されている抵抗の大きい形状による。中川さんの実験では、隙間のないシャトルは抵抗が3割減少することが分かった。中川さんは、抵抗が大きく短時間で安定飛翔するシャトルコックの応用分野として(1)宇宙探査機「はやぶさ」が大気圏再突入の際に本体が燃え尽きたが、抵抗の大きい形状にして減速し燃焼を抑止する(2)スキューバダイビングで急浮上し脳梗塞になるのを防止するため、救命道具の形をバルーンが広がるように初速を減速させる機構の開発―などを挙げている。 笹川科学・スポーツ研究助成は、若い人が自ら発想する萌芽的な研究で、他の助成が受けにくいテーマを対象としている。今回の助成を一歩に新たな科学技術・スポーツ分野での研究が期待される。(花田攻) |