2014年05月13日(Tue)
海と船のロマンを味わう 貴重な資料も展示 海の科学館
海の守り神として古くから親しまれている金刀比羅宮(香川県琴平町)の参道脇に、船が波頭をかき分けながら突き進むイメージを白と青色でデフォルメした建物があり参拝客を迎える。琴平海洋博物館(海の科学館)だ。海の歴史や船の航海術の発展の様子を子どもたちにも分かりやすく紹介しているほか、江戸末期から明治初期にかけての地図や造船図面など貴重な資料を所蔵保管し、一般に公開している。
船をイメージした海の科学館 |
鉄筋コンクリート5階建ての同館がオープンしたのは1966年。来館者からの疑問は「どうして内陸に海の科学館ができたのか」だった。運営している公益財団法人「琴平海洋会館」専務理事の田井啓三さんによると、琴平町は元々入江に面していたこともあり、海の守護神の金刀比羅宮に参拝する大勢の人に海事思想の普及、啓発活動を行う目的で設立されたという。設立当初から日本財団が支援している。
江戸情緒豊かな木造の太鼓橋を渡って中に入ると、100石積みの原寸大の弁財船が出迎える。江戸時代に「こんぴら船」として金刀比羅宮への参拝客を大阪や岡山から乗せてきた。来館者はまず屋上に上がり、下の階に降りてくるのが順路。屋上には実際のレーダーや計器を装備した「動く操舵室(ブリッジ)」があり、レーダーを操作し舵輪を回すと、ブリッジ全体が左右に動き、実際に航海した気分を味わえる。ラジコン船操縦コーナーでは、小島を設えたプールに浮かんでいる模型のフェリーや客船をラジコン操縦し、子どもらの関心が高い。両親と一緒に訪れた高松市内の小学4年の女生徒は「小さい頃来たらしいが、覚えていない。いっぱい楽しみたい」と笑顔で回っていた。 来館者を迎える「こんぴら船」 航海気分を味わえる「動くブリッジ」 映像とサウンドシアターが楽しめるのが5階のコーナー。満天の星空の下、円形の室内の真ん中に大型テレビが据え付けられてある。見学者がスタートボタンを押すとギリシア神話や幽霊船をはじめ竜や人魚などの「海と船の物語」、四面を海に囲まれた島国で食料を輸入し、車などを輸出してこの国を支えている「日本の海運」、珍しい生物たちの姿をとらえた「深海の映像」の3本が35分間にわたり上映され、海の不思議さや船の発達の歴史を楽しみながら学べる。 海と船の歴史が映像で楽しめる 4階は「海の宝島」。浦島太郎や人魚姫など神話や民話、伝説にまつわる海の物語がパネルで分かりやすく説明。田井さんによると、子どもらが抱いている物語のイメージと違い「本当はこういう話だったのか」と感心して帰るという。同県直島の「鯛縛網(たいしばりあみ)船」の模型も展示されている。2艘の船が網の両端を縛り上げるように引き揚げ鯛を獲る漁法で、全国でも数少ない木造船を作る技術を持つ船大工の津田孝さん(86)が造った貴重な模型船だ。3階の目玉は「深海シアター」。太平洋の海底状況が映し出され、太平洋プレートなど地震発生のメカニズムが紹介されている。 海にまつわる物語を紹介するパネル 2階は企画展示室。1月18日から2月23日までは、全国の小・中学生を対象とした「灯台絵画コンテスト」に入選した作品25点が展示された。海上保安庁長官賞に選ばれたのは鹿児島市内の小学2年生の女児。青い海を背景に白い灯台がくっきりと浮かび上がり、ウニを手にした海女さんと家族の風景が描かれている。 海上保安庁長官賞に選ばれた作品 同館のもう一つの役割は海事に関する資料の公開と貸出だ。海運業界で活躍した元日本海事史学会会長の住田正一氏が収集した「住田コレクション」をはじめ約300点を所蔵。特別展示されているのが「西洋軍艦構造分解図説」。江戸時代の文化5(1808)年に長崎通詞本木正栄の肉筆で、縦51a・長さ660aの巻物。大砲を備えた軍艦全図や船首側面、船首正面、航海器具などが細かく描かれている。1864年には坂本竜馬の手に渡り、海運での活躍に大いに役立ったと見られている。 坂本竜馬も所有した「西洋軍艦構造分解図説」軍艦全図が描かれてある 興味深いのは「輿地航海図」。英国人により作られた世界地図(航海図)を基に、安政5(1858)年に静岡県沼津の医師・武田簡吾らが翻訳・発刊した世界航海図で、日本は「日本諸嶋」として地図右側に描かれ、「四国」「大阪港」などが書き込まれている。「住田コレクション」は東京国立博物館と匹敵するほどの貴重な資料で、田井さんは「資料価値が高いのに日の目を見ないのは大変な損失だ。無償で貸し出し多くの人に紹介したい」と、同館外での公開に意欲を示している。(花田攻) 右側に日本が描かれてある「輿地航海図」 |