2014年05月01日(Thu)
森里海連環学の新たな可能性に期待する
(リベラルタイム 2014年6月号掲載)
日本財団理事長 尾形 武寿 ![]() 番組は一九七〇年代、赤潮の大発生で「瀕死の海」となった瀬戸内海を劇的なまでに蘇らせた漁師たちの「里海の営み」を取り上げ、瀬戸内海に広く設置されたカキ筏の養殖ガキによる海水浄化作用に焦点を当てていた。 |
数十億個にも上る養殖ガキが、一固体で一日二00ℓもの海水を体内に吸い込みプランクトンを食べることで、瀬戸内海の海水の浄化が進んだとの内容。現実には、大量の“糞”が海底に堆積するほか、海水が過度に浄化されると”エサ不足”で全体の漁獲量が落ちる、といった問題も出てくるようで、海の環境はそれほど微妙で単純化が難しい、ということのようだ。
日本財団は三年前までの「日本船舶振興会」の名称が示す通り、海との関係が深い。九六年から四年間、内外の有識者を招いて国際シンポジウム「海は人類を救えるか」を開催。京大とは、二〇〇八年からフィールド科学教育研究センターと協力して「海域・陸域統合管理学」の講座を開設、四年間で二千人以上が受講した。今回の森里海連環学教育プログラムもその延長線上にある。 地球の容力は、今世紀半ばには九十億人を突破する人口増加と経済成長で極限に達しつつある。問題ごとに個別に対応する、従来の方法では限界があり、トータルな視点こそ求められる時代となった。 国土の大半を森で覆われ四面を豊かな海に囲まれた日本は、前述の山下教授がリーフレット等に記しているように「海と森の繋がりの再生を目指し、持続可能な人間社会の在り方を世界へ発信する」立場にある。 この考えは、もともと宮城県気仙沼市でNPO法人「森は海の恋人」を主催する畠山重篤氏の活動に由来する。畠山氏が家業のカキ養殖を営む気仙沼湾は一九七〇年代、工場排水や家庭排水の増加で赤潮が増え、これを吸ったカキが赤く染まる「血ガキ」現象が起きた。フランスのカキ養殖現場の視察等、研究を重ねるうちに海に通じる森と川がカキの餌となる植物プランクトンを育てていることに気付き、気仙沼湾に注ぐ大川上流の室根山で落葉広葉樹の森づくりを開始した。 同様の運動が全国に広がり、畠山氏には二〇〇一年、関係財団の社会貢献支援財団が「海の貢献賞」を贈り、その功績を称えた。四月末には日本財団が支援した「森里海研究所」も地元舞根湾に完成、森里海連環学のフィールドワークの拠点になる。 関係者によると、背骨を山脈が縦断する日本列島は、二万本を超す中小河川を通じて森の水が太平洋と日本海に注ぐ。淡水と海水が混じり合う河口部の汽水域こそ「海の森」であり、陸と海双方の森を復活させることが環境の再生、回復につながる。 人類はこれまで陸を中心に「国のあり方」を考え、十七世紀の法学者グロティウスの「海洋自由論」そのままに海を野放図に使ってきた。しかし母なる海の再生、恵みなしに百億もの人口を養うことはできない。 陸と海をつなぎ、双方を一体として調和を図る連関学こそ、人類の将来に新たな可能性を提供する。そんな大きな夢を託しながら、この学問の今後に注目している。 第一期の修了生は二十六人、うち九人はアフリカや中国からの留学生。海外からの注目も高まっている。 |