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2014年04月30日(Wed)
髪をきれいに お年寄りの顔ほころぶ 瀬戸内の離島で訪問理美容
 「髪をもっと短くしますか」。美容師さんがドライヤーを当てふんわりと整える。「久しぶりに髪をきれいにしてもらったよ」。お年寄りの顔がほころぶ。瀬戸内海に浮かぶ香川県丸亀市本島。周囲の海は陽光を受けてキラキラと光る。島の集落の集会場で美容師さんが手際よくカットする。NPO法人「訪問理美容ネットワークゆうゆう」が美容院のない過疎地や離島を中心に、高齢者への出張理美容を行っている。住む人が少なくなり生活を支えるサービスが衰退する中で、高齢者が住み慣れた離島でいつまでも元気に暮らしていけるように、支援のネットワークづくりを進めている。

姿身を窓際に立てかけカットする
姿身を窓際に立てかけカットする
 「ゆうゆう」は高知市に本拠を置く。西岡貢さん(64)が2005年にNPO法人を設立し、理美容施設に来店できない身体に障害を持った人や、介護を必要とする人の自宅や入所施設、地域に理美容施設がない中山間地域を舞台に活動を展開。現在スタッフは18人、年間の利用者は約4000人となっている。2013年に日本財団の助成を受けて「離島に過疎地に 元気ときれいの風を」スローガンに、香川県の有人離島14のうち、10の島で出張理美容を実施している。

本島のフェリー桟橋
本島のフェリー桟橋

 本島は丸亀港から船で35分、塩飽28島中最大の島で周囲は約19キロある。塩飽水軍の本拠地として豊臣秀吉の朝鮮出兵で活躍。その功により水夫らに統治が認められ、島内には歴史・文化財が数多く残されている。しかし、年々過疎化が進み今では理美容施設は1軒もなくなった。

訪問美容が行われた集会場
訪問美容が行われた集会場

 西岡さんと美容師の大石理絵子さん、山田ひとみさんの3人が訪れたのは島の西側にある住民65人が暮らす福田地区で、今回で3度目。集会場の20畳の広間に手慣れた様子で大きなビニールシートを広げ、窓際に持って行った姿見を立て掛ける。さっそく待っていたお年寄りが椅子に腰かけカットしてもらう。集まったのは8人。自分のカットが終わってもだれも帰らず、家族の話などで盛り上がる。地区のサロンだ。「皆さん、べっぴんさんになったか」。集会場の縁側から声をかけて入ってきたのは地区の民生委員の女性。「ハネちゃん、髪が黒くて後ろから見ると20歳に見える。そのまま振り向かないで」。85歳のお年寄りに冗談を言うと、みんなが笑いこける。大石さんが鋏を動かしながら「この地区では女性と猫しか見たことがない」と話しかけると、後ろで待っていたお年寄りから「ここはみんな男前だから床の間に隠してる」。冗談で返してくる。

カットを待つ間に話に花が咲く
カットを待つ間に話に花が咲く

 2人が手際よくカットし、2時間半で終えた。カット代は1人2000円。島から丸亀市に船で渡ると往復1050円掛かるうえ、船の時間も気にかかり、ゆっくり美容院にも行けない。西岡さんが島の5地区の自治会に訪問美容を呼び掛けたところ、真っ先に手を挙げたのが福田地区だった。唯一の女性地区長さんで、「年をとっても女性はきれいにならない」と、率先して利用者を募っている。

 西岡さんは神奈川県内の電機メーカーで働いた後、25歳で帰郷。美容師の奥さんとの結婚を機に美容サロンを開店した。転機は認知症で介護施設に入所している母親を、奥さんが髪を切り口紅をつけ「おばあちゃんきれいになったね」と言った際に、母親が「当たり前じゃ、私は死ぬまで女性だ」と言い切ったことだ。女性にきれいになりたいという生きがいを持ってもらいたいと思い立った。しかし、女性への美容意識は介護現場では薄く、理容師による散髪でヘアーデザインは無視されて刈り上げてしまう。“施設カット”と呼ばれているのが現状だ。
 
 こんな人たちに「いつまでもきれいに元気で過ごしてほしい」と手探りで出張美容室を始めていた2002年に、過疎化が著しい高知県馬路村から「バスに乗るのも大変な高齢者が自宅の風呂で髪を切っている。何とかならないか」という依頼があった。以前に保育園だった場所で定期的に、美容師さんがお年寄りの髪を切るようになり喜ばれている。馬路村は人口1000人足らずの小さな村だが、平成の大合併にも加わらず、特産のゆずジュースが好評で元気な村だ。

地域のお年寄りと話をする西岡さん
地域のお年寄りと話をする西岡さん

 「ゆうゆう」は美容技術を生かした地域での交流に力を入れている。それが「着物着付け講習会」「べっぴんしゃん講習会」。独居世帯や家に閉じこもりの人に何とか人の輪の中に入ってもらおうとの狙いだ。着物はいっぱい持っているが、着る機会もなく“箪笥の肥やし”になっていると嘆いているお年寄りに、着物のファッションショーに出てもらう。髪をセットし化粧してべっぴんさんに。「きれいになったので明日から元気に生きていける」「もう着物を着ることはないと思っていた。これを記念写真に撮りたい」などの声が寄せられたという。プロの美容師が簡単に素肌を手入れできるマッサージ方法やワンポイントメイク、ヘアーセットを教えることも。「何年も化粧しとらんね。これで父ちゃん喜ぶね」。女性がきれいになると地域も盛り上がる。

 中山間地や離島では年々、人口が少なくなり高齢社会が猛烈な勢いで進行している。行政サービスは手が届かなくなり、採算が合わないから民間事業者も撤退し医療・理美容など生活を維持する最低限のサービスが消滅しようとしている。西岡さんは「これからはNPOやボランティアなどの民間力が元気な周辺都市と連携して、支え合う社会を作る必要がある」と指摘する。

 瀬戸内海には969の島があり、そのうち人が住んでいる島は152。こうした離島への定期的な訪問理美容を目指して、隣県のNPO団体との連携を進め、近く岡山県の離島でも取り組む。さらに理美容師のスキルアップ講習会、「福祉美容」を目指す人材育成機能としての通信教育による理美容学習のプログラム開発も計画している。(花田攻)
カテゴリ:健康・福祉





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