2013年08月21日(Wed)
【正論】少子化も視野に養子法の制定を
(産経新聞【正論】2013年8月21日掲載)
日本財団会長 笹川 陽平 ![]() |
一方で、子宝に恵まれず不妊治療を受ける夫婦は全国で40万組を超すと推計される。子供の発育にとって施設より家庭的環境が望ましいのは言うまでもなく、養護を必要とする児童の9割近くが施設で暮らす現状を里親、養子縁組中心に切り替えていく必要がある。
虐待問題に追われる相談所 しかし現行の養子法は明治以来の家族制度の性格を色濃く残し、子供救済の視点は弱い。こうした中、野田聖子、遠山清彦両衆院議員らが「養子縁組あっせん法」の試案を公表、議員立法として制定を目指している。その意義は否定しないが、まずは基本法となる「養子縁組法」を制定するのが先決で、養子縁組を広く普及させていくうえでも現実的と考える。 養子縁組に関しては、親に育てられない新生児の出生証明書を偽造して子供を望む夫婦にあっせんしていた「菊田医師事件」を教訓に1988年、血縁のない子供を戸籍に入れ実子として育てる「特別養子縁組制度」が民法に追加された。生みの親が親権を放棄し、育ての親である養親が法的な実親となる点に特徴があり、最終的に家庭裁判所の審判で成立する。 2011年度の成立実績は374件。3分の2は児童相談所、残りは厚生労働省に届けている民間機関の仲介だ。養子制度に詳しい湯沢雍彦お茶の水女子大名誉教授によると、制度発足当初、年間750〜1200件の特別養子縁組がまとまったが、ここ数年、400件以下にとどまっている。児童相談所が虐待問題に追われ十分に対応できていないのが一因だ。最近は民間の方が活発で、ノウハウの蓄積も多いという。 乳児院で保護される赤ちゃんは、2歳までに里親や養子縁組相手が決まらなければ児童養護施設に移る。現在、乳児院に保護される赤ちゃん3000人のうち700人以上は親との交流が全くない。40年間、里親制度の普及に取り組んだ経験からも、特別養子縁組は、生みの親が育てられない子供を幸せに育てる最善の方法だと考える。 子供の救済に一層、役立てるためには民間の協力が欠かせず、そのためにも、民間機関が備えるべき要件や養親の基準などルールを明確にする必要がある。われわれも民間機関や学識者との交流や勉強会を重ねているが、あっせん法試案には、いくつかの点に疑問を感じる。 早期の養子縁組こそ現実的 例えば、特別養子縁組に関し生後3カ月間、実母から同意を得るのを禁止している点である。出産後、なお実母の気持ちに変わりはないか確認する期間のようだが、子供を育てられないケースには、同級生にレイプされた女子高生や父親の子をはらんだ少女など、あまりに悲惨な事例が多い。 誰にも相談できないまま中絶可能期間を過ぎ、解決策もないまま出産し遺棄や殺害に走る。こうしたケースは昨年、報道されただけで25件、半数近くは出産直後の殺害、遺棄致死だった。出産前に引き取ってくれる養親が決まっていれば、その危険性は減り、直後に養親の家庭に引き取られれば、赤ちゃんと養親との親子関係も形成されやすい。出産後の育児が不可能とはっきりした時点で特別養子縁組手続きに入った方が、母子双方の救済につながる。 最近、問題化している「寄付」に関しても、児童福祉法が禁ずる営利を目的とした養子あっせんは論外として、特別養子縁組制度を社会に健全に定着させるには、実母に対するケアや養親との面談、団体を運営するための人件費など資金的裏付けが欠かせない。事業の社会性から見ても、公的支援の強化が検討されるべきではないか。われわれも、ささやかながら支援したいと思う。 このほか、生みの親との関係で出生地から遠く離れた地域で育つ方が幸せな場合や、国内より外国の方が成育環境が合う混血児童もいると思う。特別養子を望む夫婦に関する情報を全国の児童相談所、民間機関、産科婦人科医院など関係機関で共有し、特別養子が妥当と思われるケースとのマッチングを広く調べ、赤ちゃんに最も恵まれた組み合わせを模索するシステムを構築する必要もあろう。 20万を超す中絶件数 子供は国の宝であり、いかなる妊娠であっても生まれてくる子には幸せに生きる権利がある。12年に生まれた新生児は1899年の統計開始以降最低の103万人。少子化が進む一方で推定中絶件数は20万を超える。 出生率を上昇させるには、社会全体で生まれてくる子供を支え合う態勢の整備が欠かせない。そうした努力を重ねる中で初めて中絶件数の減少、さらには少子化問題解決の糸口が見えてくる。 |
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