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2014年03月26日(Wed)
「避難所」を「被災者支援拠点」に 地域全体を支える 次の災害に備え
 避難者数がピーク時には約47万人に上った東日本大震災。避難所では食料配給や、高齢者ら特別に配慮が必要な人への対応などに混乱を極め、亡くなる人や体調が悪化する避難者が続出した。日本財団はNPOなどと協力して災害関連死などを防ぐため「次の災害に備える企画実行委員会」を立ち上げ、3月13日に東京・赤坂の日本財団ビルで報告会を開催した。自治体関係者ら50人が参加。これまでの避難所を「被災者支援拠点」としてとらえ直し、地域の全ての被災者を支援する態勢の構築や、企業と連携し物流や情報発信をスムーズに行い被災者が安心できる拠点づくりを目指すことなどで理解を深めた。

自治体関係者が参加した報告会
自治体関係者が参加した報告会
 同実行委員会は、日本財団のほかIIHOE(人と組織と地球のための国際研究所)の川北秀人・代表、「ダイバーシティ研究所」の田村太郎・代表理事らで組織している。メンバーは大震災発生直後から宮城県内443か所の避難所を回り、問題点を洗い出すアセスメントを行いながらNPOを被災地に派遣する活動を展開した。この中で、体力的に弱いお年寄りは避難所に来るのが遅れがちで、入り口付近の寒い場所に寝泊まりしたり、アレルギーに配慮した食品の備蓄がなく乾パンやレトルトカレーなど小麦が含まれ、食べることができなかったりした人も多かったという。こうした経緯を踏まえて2012年10月から同実行委員会をスタートさせ、東京・港区や三重県紀北町で避難施設の運営訓練に取り組んできた。

 報告会の冒頭にあいさつした同財団の青柳光昌・復興支援チームリーダーは「長引く避難所生活で起きた災害関連死。こうしたことが起きないよう次の災害に備えて地域の人を支援していく拠点づくりが必要で、先導となるモデル方式づくりに取り組んでいく」と述べた。来賓で参加した総務省消防庁の赤松俊彦・防災課長は「(緊急の一時的な)避難場所で命をつなぎとめた人が、(避難生活を送る)避難所で命を失われたら制度がおかしい。行政だけでは限界があり(NPOなど)皆さんと一緒に情報を共有しながらよいものを築いていきたい」と、避難所の見直しを示唆した。

日本財団の青柳チームリーダー=左=と総務省消防庁の赤松防災課長.jpg
日本財団の青柳チームリーダー=左=と総務省消防庁の赤松防災課長

 宮城県内の避難所アセスで中心となった田村さんは、大規模災害時の課題を2点指摘。発生直後は大量の避難者が押し寄せることから、地域全体を面で捉え避難所とその周辺のニーズを把握、交通機関や他の避難所情報を伝えるようにする。もう一点は避難所が長期化すると高齢者が多くなること。健康面や生活上でのニーズを的確にとらえ、専門性の高い外部の団体につなぐことが重要で、そのための人材育成が必要だとしている。田村さんは中越地震や阪神・淡路大震災での避難生活で死亡する例が跡を絶たなかったことにも触れ、今回の東日本大震災でも関連死の3割が避難所での生活環境に起因。その中でトイレが外にあったり、汚かったりして高齢者が水分補給を我慢し、血栓が生じやすくなり脳梗塞の引き金となったという。関連死をなくすには地域での避難訓練の在り方を変えることだとし、これまでの避難場所まで逃げる訓練だったのを、さらに避難所での運営訓練まで踏み込むよう強調した。

災害時の課題を報告するダイバーシティ研究所の田村さん
災害時の課題を報告するダイバーシティ研究所の田村さん

 港区と三重県の防災担当者からは、避難所の運営訓練が報告された。港区では訓練参加者が高齢者や体が不自由な人などの役割を分担し、それぞれに合った対応の仕方について学んだ。三重県紀北町の訓練では予め避難者のニーズを抽出、フェイスブックで県内外の専門家に対処方法を問い合わせ、避難所運営が円滑に行えるかを試行した。

 大規模災害が発生すると、企業自体が被害者になるとともに自社の事業サービスにより、被災地の救援・復旧に大きな力を発揮する。同日参加したのは富士通(株)、凸版印刷(株)、全国ロードサービス協会、日本セーフティー(株)、ソフトバンクモバイル(株)の5企業・団体。帰宅困難者となった社内での避難所運営や災害時の通信状況などについて説明。ソフトバンクのCSR推進課長の柴田正和さんは「通信はライフライン。移動基地局の強化など被災地の復興に支障がないようにネットワークを強化する」と語った。

会場では災害用品の展示・説明会も行われた
会場では災害用品の展示・説明会も行われた

 「次の災害に備える八策」を提案したのは川北さん。大災害発生時に避難所にたどり着けない人や自宅にとどまらざるを得ない人も数多くおり、地域全体を支援する拠点づくりが重要だと指摘。避難所や拠点を運営する上での大事な8項目を説明した。その中で挙げた1つが、「自分の地域の今後の人口構成を知る」。東日本大震災で約250人の消防団員が亡くなったが、4割近くは高齢者を救出中ではなく、避難するように説得中だったと指摘されている。東南海地震の被害想定地域となっている三重、高知などでも逃げる意欲を失っている高齢者も多く、迅速に避難活動を行うため3−5年後の人口構成を把握しておく重要性を指摘。訓練に参加する住民が少なくなっていることから、川北さんは「バーベキュー会」「避難食レシピ」など訓練っぽくない訓練の機会を設けることも提案した。

「八策」を説明するIIHOEの川北さん
「八策」を説明するIIHOEの川北さん

 同実行委員会では、高齢者や体の不自由な人など様々なニーズを把握して避難所で命を落とす悲劇を防ぐとともに、避難所以外の地域全体を支援する態勢を整備し次の災害に備える取り組みを進めていく。(花田攻)

「次の災害にどう備えるか」をテーマにワークショップする参加者
「次の災害にどう備えるか」をテーマにワークショップする参加者





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