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2013年11月26日(Tue)
笑顔をともに前向きに生きる 難病の子らが支援者と交流
 治療で役目を終えた歯の金属冠を歯科医から提供を受け、リサイクルした資金で難病の子どもらを支援する「TOOTH FAIRY(歯の妖精)」。事業の1つとして実施している「ウィッシュ・バケーション(家族全員旅行)」に参加した難病の子どもと家族が、支援した人らと交流する「ギビング・サンクス・パーティー」が11月16日、東京・赤坂の日本財団ビルで開かれた。仙台や東京などの7家族とサポートしたボランティアら約50人が集い、マジックショーなどを楽しんだり、「旅行」の思い出話で盛り上がるなど心なごむ時間を共有し、親睦を深め合った。

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7家族が参加し和やかな雰囲気の中、パーティが始まった
 「歯の妖精」事業は、日本財団が日本歯科医師会の協力を得て2009年から取り組んでいる。現在、全国の歯科医院の1割に当たる5500歯科医院が参加し、換金した寄付金額は累計で6億円に上っている。

 難病の子どもの3人に1人は「ディズニーランドに行きたい」と希望しているという。その願いを叶えようと「家族全員旅行」は年2回、2つの家族の難病の子どもと両親、兄弟・姉妹全員をディズニーランド(千葉)やユニバーサルスタジオ(大阪)、東京・浅草見物などに招待。看病で子どもに付きっきりのお母さんを含め家族全員が東京・表参道のカリスマ美容師に髪を切ってもらうなど、家族に楽しい時間を過ごしてもらい絆を強める取り組みだ。「旅行」には社会貢献事業に力を入れている企業(延べ100社)の中から、毎回約15人がボランティアとして参加、子どもの車いすを押すなどして家族を支える。「旅行」は公益社団法人「難病の子どもとその家族に夢を」(大住力・代表理事)が「歯の妖精」の支援を受けて実施している。

 車いすの子どもが手拍子したり、母親の膝の上で歌に合わせて体を動かしたり―小春日和の柔らかい日が差し込む財団ビルの1階ホールに、ザ・ピーナッツからAKB48までアイドルソングが響き渡った。歌って踊ってマジックする若い女性コンビが、1枚のハンカチから長い棒を取り出したり、炎を出したり。トランプが飛び出して子どもらの足元に落ちると、見つめていた子どもらは目を丸くし嬉しそうな表情を浮かべる。

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手を叩き喜ぶ子どもたち

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子どもも参加し「予言マジック」にビックリ

 仙台市の菅原純子さん(45)は、車イスの2女の真優さん(12)と姉弟の計4人で参加した。「旅行で一緒だった人たちと家族同様に何でも話せる。心の支えになる友達です」と穏やかに話す菅原さんだが、当時7歳の真優さんが急性リンパ性白血病を発病した際には、目の前が真っ暗になったという。骨髄移植でしか生存できず、それまで化学療法で命をつなぐ必要があった。まだ日本には効果的な治療薬がなく担当医が米国の新薬を見つけ治験に踏み切ったが、副作用がひどくなかなか呑み込めない。純子さんは「これを飲まないと生きていけない」と薬を吐き出す真優さんに必死に飲ませ続けた。その甲斐もあり翌年、弟から移植を受け症状は安定した。抗がん剤の副作用で車いすを利用しているが、自分の足で歩けるようリハビリに励んでいる。物語や図鑑の本を読むのが好きな真優さん。将来の夢はジュエリーデザイナーになることだ。

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難病を乗り越え打ち解けて楽しむ菅原さん一家

 難病の子どもを抱える家族が「旅行」に招待されるまで3カ月ぐらいかかる。その間に症状が悪化し亡くなってしまう子どももいる。仙台市の工藤史さん(45)の3男、玄君は昨年12月に肺高血圧症で亡くなった。11歳だった。今年3月にディズニーランドを見物する予定だった。辞退しようとした工藤さんのもとに「子どもを支えている家族を支えるのも目的」と呼び掛けがあり参加した。大勢の支援者と交流を深め、今でもネットで情報交換している。

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玄君の遺影を胸に挨拶する工藤さんと家族

 「旅行」を支えているのが企業や個人のボランティアだ。その1人、浅草で人力車で観光案内している梶原浩介さん。参加した家族に人力車に乗ってもらい、浅草寺の雷門、スカイツリーがよく見通せる場所など下町の風情を味わってもらっている。「家族は本気で遊びに来ている。私らも本気で最高のバケーションを提供している」。梶原さんは浅黒い顔を引き締める。
 
 参加者にはプレゼントも。30センチぐらいの細長い棒に木製の滑車で丸いうちわが取り付けられ、くるくる回すと風が360度吹きわたる。人とのつながりを大事にし、社会に喜びの風を吹かそうと「喜風(きふ)」と名付けられたうちわだ。高級生地を利用したテディベアも7人の子どもに贈られた。

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テディベアを贈られてニッコリ

 パーティーでは、「歯の妖精」事業に協力している日本歯科医師会の村岡宜明常務理事が挨拶し「笑うということは口を開け、美しい気持ちを外に表すことです。笑顔を忘れないで、楽しく生きましょう」と呼び掛けた。大住さんは「今年も家族の皆さんからいっぱい元気をもらった。もっと多くの家族と喜びをつくっていきたい」と運動の広がりに意欲を示す。大住さんから同歯科医師会と同財団に対して「ありがとう」という感謝状が授与された。

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「ありがとう」の感謝状を授与された日本歯科医師会の村岡常務理事(左)と大住・代表理事(右)

 最後に7家族がそれぞれ自己紹介と近況を報告。「家族で一緒に撮った写真がほとんどなかった。この旅で子どもの笑顔が素晴らしく、いい思い出をいただいた」「来年子どもの3回忌を迎える。皆さんの笑顔とともに前に進んでいきたい」。「これまでは生きてほしいとそれだけ考えた。病気が治った今では普通の母親が持つ子育ての悩みが出てきた。幸せです」。家族の心に刻まれた辛さ、悲しみが次第に溶けていくような1日だった。

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「喜風」のうちわを手に参加者全員で記念写真

 日本では現在、小児がんなどの難病の子どもが約20万人に上っており、家族とともに長期療養を余儀なくされている。「歯の妖精」では難病の子ども支援事業の一環として、神戸市ポートアイランドに建設中の日本初の小児がん専門施設「チャイルド・ケモ・ハウス」に3億円を助成した。来年初頭にオープンする。

 もう一つの支援事業の柱は、ミャンマーでの学校建設。同国政府の手がなかなか及ばない辺境地域を中心に年間10校を建設、5年間で50校の学校を建てる予定だ。さらに日本から歯科医がボランティアとして現地を訪問し、無歯科医村での口腔ケアや予防歯科に当たるなど支援の輪が広がっている。(花田攻)



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