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2013年11月21日(Thu)
森の民の平等意識
(朝雲 2013年11月21日掲載)

日本財団会長 
笹川 陽平 

 ハンセン病制圧活動で5年前、コンゴ民主共和国を訪れた際、「ピグミー」と呼ばれる人たちに会った。民族辞典などによると、ピグミーは民族名ではなく、成人男子の平均身長が150センチ以下の集団を指し、アフリカからアジアにかけ、いくつかの民族が住む。

 訪問したのはコンゴ北部のオリエンタル州ワンバ地区。我々を乗せた9人乗りの小型機は、熱帯雨林の赤土の広場に激しく機体を揺らして着陸した。何とか降り立つと、この地域の支配民族であるバンドゥ人が警備する中、約500人のピグミーの人々が出迎えてくれた。
 彼らは普段、20〜50人の集団で狩猟をしながら森の中を移動しており、この日は周辺にいたいくつかのグループが集まってくれた。

 森の中を俊敏に動けるよう小型化したといわれ、多くの男性は130センチ前後。筋肉質で眼光も鋭い。女性は12、13歳で結婚、全体に多産といわれ、臨月に近い大きな腹に娘の赤子を横抱きした母親の姿もあった。

 棒きれと葉っぱを組み合わせた小さな住居は家というより移動用のテント。家財もほとんどなく、歌と踊りで一行を歓迎しながら、同行した職員のカメラの映像に何度も驚きの表情を見せた。

 訪問目的となったハンセン病。有病率は事前に指摘されたように相当高いようで、集まった中にも皮膚に特有の斑点を残す人も何人もおり、触れると見慣れぬ異人に緊張したのか、耳に聞こえるほどに心臓を高鳴らせた。

 ハンセン病は1980年代に治療薬が開発され、世界のどこでも無料で手に入る。服用すれば半年から1年で回復し、この国も全体ではWHO(世界保健機関)の制圧目標「人口1万人当たり患者1人未満」を既に達成している。

 ピグミーの人たちの有病率が特異に高いのは、移動性が災いして薬が行き届いていないということかー。同行したWHO職員とそんな会話をしていると、現地でピグミーの定住化に取り組むカトリック神父が「彼らは厳しい環境を生き抜くため獲物を平等に分け合って暮らしている。薬も平等に分けているのではないか」と苦笑しながら口を挟んだ。

 別れに当たり彼らは弓矢、魔法の杖とともに小鹿に似たアンティロープ、九官鳥を生きたまま贈ってくれた。世界で暮らす民族は5〜6千にも上るといわれるが、素朴な贈り物に、今も独自の文化の中で生きる森の民の精いっぱいの誠意を感じた。



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