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2025年05月08日(Thu)
米露に“翻弄”されるウクライナ 改めて問われる「日米安全保障体制」
(リベラルタイム 2025年6月号掲載)
日本財団理事長 尾形 武寿

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 ロシアの侵攻で始まったウクライナ戦争の出口が、丸3年以上経た現在も見えない。一月、二期目に就任したトランプ米大統領が仲介に乗り出したものの、激しい口論の末、決裂したウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談を見るまでもなく事態を一層、混迷させている感がある。

出入国在留管理庁によると、ロシアの侵攻後、日本が受け入れたウクライナ避難民は約二千七百人(今年一月末現在)。日本国内に身元保証人を持つ人を日本財団、それ以外を政府が支援し、日本財団では約二千人の避難民に渡航費や年間百万円の生活費、住環境整備費などを支援してきた。

その後、約三〇%が帰国などで日本を離れ、昨年秋、残る約七〇%のうちの十八歳以上の人を対象に行ったアンケート調査では、回答を寄せた八百八十七人のうち四四%が「できるだけ長く日本に滞在したい」、二七%が「ウクライナの状況が落ち着くまでは日本に滞在したい」と答えた。

二年前の二三年春に行った同様の調査(回答者一千七十七人)では三三%が「できるだけ長く日本に滞在したい」と答えていた。長期滞在を希望する人の割合が一〇㌽以上増えた背景には、先が見えないウクライナ情勢に対する不安といら立ちがある。

トランプ大統領はアメリカ第一主義の立場で、矢継ぎ早に高関税政策を打ち出し、強引ともいえる「ディール(取引)外交」が世界各国に動揺と混乱を与えている。

ウクライナ問題に関しても「早期の戦争終結」を公言する一方で、軍事支援の継続と引き換えにウクライナの豊富な鉱物資源に対する米国の権益を主張。ロシアが占領した領土の一部をウクライナが放棄する可能性にも言及するなど、今後、事態がどう進展するか予測するのは難しい。   

これ以上の同胞の犠牲、国土の崩壊を防ぐためにも、戦争の早期終結が国外に避難した人も含めウクライナ国民の一致した願いであろう。半面、戦況がどうであれロシアの一方的な侵攻で始まった戦争で領土の一部が失われるのは納得できないだろうし、一時的な停戦が実現しても、ウラジミール・プーチン大統領の言動から、それでロシアの侵攻が終息するとも思えない。

さらに戦争が終わった場合も、破壊された国土の復興に膨大な資金と時間が掛かり、幅広い国際協力が欠かせない。日本財団の生活支援は「三年間の緊急支援」としてスタートしており、来年四月に一段落するが、日本での就業に向けた語学学習支援など、引き続き息の長い取り組みが必要になると考えている。

そうした中で帰国して日本とウクライナの友好を橋渡しする、あるいは日本に永住してこの国の社会づくりに参加してくれる人も出てくると思う。そんな積み重ねが我国にとっても新たな財産になる。

ウクライナやパレスチナ・ガザ地区での戦争を見ていると、国際社会は明らかに「力による支配」の時代を迎えている。ウクライナ戦争には核・ミサイル開発を急ぐ北朝鮮も参戦し、中国の軍事的威嚇によって台湾有事の危険性も高まっている。

ロシアがソビエト連邦時代の一九四五年に侵略した我国の北方領土を今も不法に占拠する現実もある。「今日のウクライナが明日の東アジアになる」。そんな可能性を懸念する声の高まりにも一理ある。

国際秩序が崩壊する中、トランプ大統領は日米安全保障条約に対する不満を繰り返し述べている。戦後八十年を経て、日米同盟に全てを頼る我国の安全保障は明らかに限界にきている。国として独自に安全保障を強化する必要を改めて痛感する。








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