そんな中、昨年7月、英国のスコットランド海洋科学協会(SAMS)の研究チームが深海底で酸素の生成が行われている可能性を示す研究結果を世界的な科学誌「ネイチャー・ジオサイエンス」に発表した。ハワイとメキシコの中間にあたる太平洋の深さ約4000メートルの海底から採取した標本の分析を基にした研究結果で、発生源やメカニズムが謎のため「暗黒酸素」と表現され世界の注目を集めている。
海に関しては海底地形の解明率が15%、海洋生物の91%は未発見と月や火星以上に未知の部分が多い。人類が海の保全と持続的な活用を進めるためにも、一層の解明が欠かせない。そんな考えで日本財団はSAMSの研究チームに3年間で200万ポンド(約4億4千万円)を支援して共同研究を進めることに決め1月17日、ロンドンでSAMSと共同発表した。
暗黒酸素に関しては、深海にあるマンガンやニッケルなどなどを含んだ多金属団塊が海水を電気分解して酸素を生み出している可能性が高いと見られている。共同研究では水深1万1000メートル以上の海底に到達できる実験装置を開発し、暗黒酸素の発生源や深海生物への影響などを多角的に調べる計画だ。
深海にある多金属団塊に対する関心は国際的に高まっており、日本財団が東京大学と南鳥島深海底で進めた調査でも海底からレアメタルを含む球型のマンガンノジュール(小さな塊)が大量に発見され、わが国の使用量の75年分にも相当する量のコバルトなど多くの金属が含まれていることが分かっている。
日本財団はこれまでも世界150カ国を超す国で海の人材育成を進めてきたほか、国際組織「GEBCO指導委員会」と進める海底地形図の作成、英国のNekton財団と協力して未発見の海中生物を探す「Ocean Census」など多くの事業に取り組んできた。
共同発表では 「人類にとっていまだ未知の世界である深海底の実態を、日本と英国の連携による“確かな科学”で明らかにしたい」とあいさつした。 “母なる海”の保全と健全な利用の両立こそ必要と考えている。
記者レクでスピーチをする筆者