原因は多岐にわたり、国によっても異なる。わが国ではバブル崩壊後に起きた「失われた30年」での給与水準の落ち込みが何と言っても大きい。女性の社会進出とこれに伴う人生観の変化や非婚・晩婚化、さらには温暖化に伴って多発する激甚災害や激動する国際社会に対する不安など複雑な要素が絡み合い打開策を見つけるのは容易ではない。
そんな訳で日本財団では昨年9月、全国の15〜45歳の男女6千人を対象に少子化に対する考えや意識を聞いた。調査項目は多岐にわたっており、今回はその一部を報告させてもらう。
まず対象者のうち約4千人の未婚者の結婚観。半数弱(46%)が「結婚したい気持ちはある」とする一方で、現実に「結婚すると思う」と答えた人は27%に留まった。さらに現在、子どもを持たない約4千4百人に今後の希望を聞いたところ、「子どもを持ちたい」(37%)と「持ちたくない」(36%)がほぼ同数で並んだ。
子どもを持ちたくない理由では「自分の自由な時間や生活を優先したい」といった声が37%に上る一方、養育費や教育費など「経済的負担が大きい」(43%)、「給与水準が低く経済的余裕がない」(28%)=複数回答=といった声が目立ち、収入面が少子化の大きな要因であることを裏付けている。
「子どもを持ちたい」と答えた人が理想とする子供の数は2人が58%、1人が25%、3人以上が17%。これに対し実際に持つと思う子どもの数は2人が42%、1人が37.5%、3人以上は5%。理想と現実に大きな差が出ている理由でも、5人中2人は「養育費や教育費の負担が大きい」と答え、ここでも収入の多寡がネックとなっている。
3人以上の子どもを持つのを可能とする条件としては「賃金の上昇」「教育費の無償化・支援の拡大」を求める声が大きく、岸田文雄前首相が打ち出した「異次元の少子化対策」が少子化の緩和に「つながると思う」は19%、2倍を超す43%は「つながると思わない」としている。
我が国の賃金水準はバブル崩壊が始まった90年代初頭、当時23カ国が加盟した経済協力開発機構(OECD)の中でも上位にあった。しかし、その後の「失われた30年」で大きく後退、22年時点ではOECDに加盟する38カ国中25位まで落ち込んでいる。
これに伴い初婚年齢が上がったほか、生涯未婚率(50歳時点の未婚率)も男性が28.3%、女性が17.8%と20年前に比べともに10ポイント以上増え、少子化を加速する原因となっている。
この間、企業の内部留保(利益剰余金)は23年度末で600兆円を超え、過去最高を更新した。もっと国内事業への新規投資、従業員の待遇改善に当てられるべきではなかったか―。調査結果を見ながら、そんな思いを強くしている。
日本財団「少子化に関する意識調査」より抜粋