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2025年02月05日(Wed)
― 失われた30年 ―
傷跡深く国際競争力大きく後退
25年春闘で賃上げ効果は?
日本財団特別顧問 宮崎 正
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25年春闘が始まった。労使とも23、24年度春闘の“実績”を受け「賃上げの定着」を目指すとしている。しかし国際社会の中で日本の賃金水準は引き続き低下している。さまざまな原因が指摘されているが、素人目には「失われた30年」の後遺症からいまだに抜け切れていない気がする。加速する少子化、政治の低迷、国際社会の分断等、マイナス材料も加わり「失われた40年」になる事態を危惧する。

「失われた30年」は1990年代初頭のバブル崩壊から始まり、当初は「失われた10年」などと表現された。しかし、回復の兆しが出始めたところで2008年9月に米投資銀行の経営破綻を発端にしたリーマン・ショック、2011年3月には未曽有の大災害「東日本大震災」、さらに最近では2019年末に中国・武漢市で最初の感染者が報告され瞬く間にパンデミック(世界的大流行)に発展した新型コロナウイルス禍が続き、30年以上、低迷が続いた結果、日本は国際社会の多くの分野で後退した。

まず賃金水準。1990年代初頭、当時24カ国が加盟した経済協力開発機構(OECD)の中で最高水準にあった日本の賃金は2022年、加盟38カ国中25位に。日本の研究者が発表した論文がほかの論文にどれだけ引用されているかを示すTOP10%補正論文数も1990年代後半の4位から2015〜17年には11位に後退。IMD(国際経営開発研究所・スイス)が毎年発表する国際競争力ランキングも2024年は38位。1989年から4年間、アメリカを抜いて第1位だった過去を振り返ると隔世の感がある。

さまざまな原因が指摘されているが、バブル崩壊やリーマン・ショックに直面した結果、企業が不況に備え新規の設備投資や人件費への資金投入を控え手元資金をため込む動きが進んだ点が大きい。現に財務省の法人企業統計によると、企業の利益から税金や配当を差し引いた「内部留保(利益剰余金)」は2023年度末で約601兆円。12年連続で過去最高を更新し、10年余で2倍近くに増えている。

企業の利益は株主への配当のほか設備投資、従業員の賃金引上げに充てるのが本来の姿と思う。然るに内部留保が倍増する一方で人件費は、1990年代半ば以降200兆円前後で推移し2023年度になっても約221兆円に留まっている。これでは賃金は伸びない。現に主要7カ国(G7)の1991年と2020年の名目賃金を比較すると、米国が2.8倍、英国が2.7倍に伸びたのに対し、日本は1.1倍と横ばいの状態にある。

厚生労働省の人口動態調査によると、2022年の平均初婚年齢は男性が31.1歳、女性は29.7歳。この20年間で、ともに2歳ほど遅くなり、生涯未婚率(50歳時点の未婚率)も男性が28.3%、女性が17.8%と20年前に比べ男性は16ポイント、女性は12ポイント増えている。他にも要因が考えられるが、賃金の低迷が晩婚・非婚を推し進める一因となったのは間違いない。

日本財団が昨年9月、少子化をテーマに全国の15〜45歳の男女計6,000人を対象に実施した調査で未婚の約4,000人に結婚について聞いたところ、46%が「したい気持ちはある」と答える一方で「実際にすると思う」は27%。理想の子ども数に関しても17%が「3人以上」と答えながら、実際に3人以上持つと思うと答えた人は5%と3分の1以下に留まった。

理想と現実に大きな差がある原因として「経済的な負担が大きい」(40%)、「給与水準が低い」(27%)などが上位に挙げられており、背景にはやはり賃金の落ち込みがある。設備投資も23年度、5年ぶりに過去最高額を更新したと報じられているが、5年前に比べ5%弱の増加に留まっている。新規の設備投資の低迷がデジタル革命やIT革命など新たな産業の開拓で日本が世界に大きな後れを取る原因となっている。


画像:「将来の結婚の意向・現実的な結婚の見込み」の回答についての円グラフ。左「Q将来、結婚したい気持ちはありますか」の質問に対しての回答(n=3935)。「ある」と回答した人は45.9%。「ない」と回答した人は33.4%。「わからない」と回答した人は20.8%。右「Q実際に結婚すると思いますか」の質問に対しての回答(n=3935)。「結婚すると思う」と回答した人は27.4%。「結婚しないと思う」と回答した人は38.5%。「わからない」と回答した人は34.1%。


 その意味で経済界の責任は大きい。少子化に伴う人口減少・労働力不足など我が国を取り巻く環境は一層、厳しさを増す。欧米に比べ働き手の取り分である労働分配率の低さが指摘される中、25春闘でどのような結果が出るか注目したい。


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カテゴリ:風の香り







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