2024年09月10日(Tue)
加速する少子化 「解」が見えない難題
経済的支援だけで解決は無理
多彩な原因が複雑に絡み合う 日本財団特別顧問 宮崎 正 少子化の流れが止まらない。近年は韓国や中国でも少子化が進み「国家の非常事態」として経済的支援などが行われているが、多彩な原因が複雑に絡み合い、有効な打開策は見えていない。ここでは少子化と密接に関連する生涯未婚率の増加を中心に、少子化の現状を見てみたい。 |
生涯未婚率は50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合を指す。2020年時点の国勢調査でみると、男性の生涯未婚率は約28%、女性は約18%。1975年は男性2.12 %、女性4.32%だった。長寿化が進み一概に比較するのは問題があるが、数字の上では約半世紀間で男性は10倍以上、女性も4倍強に増えた計算。2030年には男性の3人に1人、女性の4人に1人が生涯未婚者になるとの予測もある。
関連して1970年代前半、「10」を超えていた婚姻率(人口千人当たりの婚姻件数)は2021 年、「4.1」まで下がり、年間100万組を超えた婚姻件数も50万1千組と半減。1975年に男性が27.6歳、女性は24.5歳だった平均初婚年齢も昨年は男性 31.1 歳、女性 29.7 歳に上昇している。 もう一点、「完結出生児数」。固い役所言葉だが、要は結婚後15〜19年を経た夫婦が持つ子供の数をいう。約80年前の1940年は4.27人、2023年は1.90人と過去最低の数字になっている。これに伴い、世帯の子供数は07年、1人が最多となり、22年時点で1人が49.3%、2人が38%、3人を持つ世帯は12.7%に留まっている。1人の女性が一生に産む子供の数を示す合計特殊出生率も22年は1.20まで落ちた。 少子化の原因として多く使われている言葉が「非婚・晩婚化」。1990年に起きたバブル崩壊後の日本経済の低迷で、崩壊前に先進国の集まりである経済協力開発機構(OECD)のトップクラスにあった日本の平均賃金は停滞し、現在は加盟38か国中25位まで落ち込んでいる。「失われた30年」の付けが若者や子育て世代を直撃し、非婚・晩婚化が進む大きな原因となった。 バブル崩壊に伴って発生した経済混乱を教訓に企業が給与改定に慎重になったのが一因と言われるが、財務省が資本金1千万円以上の企業約3万社を対象に行っている法人企業統計によると、金融・保険関係を除いた企業の内部留保(利益剰余金)はこの間も増え続け、23年度は日本のGDP(国内総生産)にも匹敵する600兆円を超え、過去最大の数字に膨らんでいる。 企業が欧米並みの新規投資や従業員の賃金アップに前向きに取り組んでいれば、わが国でもイノベーションを起こすような産業が育ち、非婚・晩婚化ももっと穏やかに進行したと思う。残念でならない。 日本より10年遅れて少子化が始まった韓国では歴代政権が「国家の非常事態」として過去20年間、子を持つカップルへの各種補助金など日本円で約40兆円の支援策を進めてきた。しかし23年の合計特殊出生率は0.72、世界で最も低い数字となった。 岸田政権も昨年1月、第3子以降の支援に重点を置いた「異次元の少子化対策」を打ち出しているが、韓国の教訓は、子供手当など経済的支援に重点を置いた取り組みだけでは一時的な効果があっても抜本的な解決策にならない現実を示している。 時代の流れの中で若者の価値観は変わりつつある。最近は出産・育児より、自らの生活を優先させ、結婚しないことを選ぶ「非婚主義」の言葉もしばしば耳にする。温暖化が進み急速に悪化する地球環境や少子化に伴う生産年齢人口(15〜64歳)の減少で、わが子が将来背負う過大な負担を懸念して子を持つことを躊躇う向きも増えつつあるようだ。「静かなる有事」と言われる所以でもある。 少子化は自然の流れに任せるしかない、といった指摘もある。その場合、人口増を前提にした現状の社会システムを維持するのは難しくなる。例えば年金制度。我が国は現役世代が高齢世代を支える賦課方式をとっており、現役世代が急減すれば給付額の引き下げなど大幅な見直しは避けられない。大都市への過度の人口集中が少子化を加速している、といった問題もある。 恐らく、これ一つで十分といった解決策はない。社会全体できめ細かい改善策を積み上げ、少子化の流れを少しでも“穏やか”にし、並行して基幹システムを手直ししていくしかないと思う。その場合、政府や企業には少子化・人口減少時代に見合った事業の開発や新たな雇用、働き方の開拓が求められることになる。 |