2024年09月04日(Wed)
少子化による「静かなる有事」を前に新たな社会モデル構築が急務
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(リベラルタイム 2024年10月号掲載)
日本財団理事長 尾形 武寿 ![]() 厚生労働省の人口動態調査によると、二〇二三年に生まれた子どもの数は前年より五・一%少ない七十五万八千六百三十一人。八年連続の減少で、一九四七年、同調査が統計法に基づく指定統計となって以来、最少となった。 |
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国立社会保障・人口問題研究所が二三年に公表した予測では、出生数七十六万人割れは二〇三五年とされており、十年以上早く少子化が進行した形。一人の女性が一生に産む子どもの数を示す合計特殊出生率も二三年は一・二〇。人口が維持される人口置換水準二・〇七を大きく下回っている。
社会を担う生産年齢人口(十五〜六十四歳)は確実に減り、年金・医療・福祉等、社会の基幹システムは安定性を失う。これに対し政府は一五年、戦後初の出生率目標として一・八の希望出生率を掲げた。少子化のスピードを少しでも和らげ、システムを維持するのが狙いだ。 少子化は大半の先進国が直面し、多くの国が同様の目標に掲げている。しかし、多彩な要因が複雑に関係する少子化に対し有効な対策を確立し得ていない。 そんな中、我国は〇三年に少子化社会対策基本法を制定し、政府が少子化に対処するための総合的、長期的な施策を打ち出すよう定めた。岸田文雄内閣もこの一環として「異次元の少子化対策」を政策の柱に掲げている。第三子以降の大学無償化、第三子以降の「児童手当」の倍額を中心に、第三子以降の優遇に重点を置いているのが特徴だ。 しかし、世帯の子ども数は〇七年、一人が二人を抜いて最多となり、二二年時点で一人が四九・三%、二人が三八%、三人を持つ世帯は一二・七%に留まる。この数字は三人世帯の支援より、子どもを持つ世帯を少しでも増やす対策が優先されるべきことを示しているように思う。 多くの識者が少子化の原因として非婚・晩婚化を指摘している。背景に一九九〇年代に始まり、今も続く「失われた三十年」の中で、日本人の給与水準が大きく落ち込み、子育て世代の生活を圧迫している現実がある。先進国で構成されるOECD(経済協力開発機構)の上位だった我国の給与水準は現在、加盟三十八カ国中、下位の水準にあり、韓国より低い。 一方で資本金十億円以上の企業の内部留保は二〇二二年度、五百十一兆円に膨れ上がっている。企業はもっと従業員に利益を還元するべきだった。少子化対策として何よりも必要なのは景気の立て直しと給与水準の引き上げであり、それこそが大企業の責務と考える。 少子化に関しては多くの調査がある。BIGLOBEが昨年二月、Z世代(十八〜二十五歳)五百人を対象に実施した調査では、半数弱の四五・七%が「将来結婚はしたいが、子どもはほしくない」、「将来結婚もしたくないし、子どももほしくない」と答えた。経済的な理由などもあろうが、若い世代の価値観も確実に変わってきている。 温暖化で急速に悪化する地球環境や八十億人を超えた地球人口を前に子を持つことをためらう向きや出生率の低い東京への一極集中が少子化を加速している、といった指摘もある。ただし、江戸時代は三千万人強の人口で成熟した文化を築いた。人口減少を恐れる必要はない。急ぐべきは人口減少に見合った新たな社会モデルの構築である。 日本をはじめ韓国、中国、台湾など東アジア各国の出生率の低下は世界の中でも際立つ。 “静かなる有事”と呼ばれる事態にどう対処するか、国際社会も注目している。国の壁を乗り越え、少子化対策について知恵を出し合うのも有意義な試みと考える。 |



