2024年08月28日(Wed)
指導者に必要な「責任感と覚悟」
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(産経新聞「正論」2024年8月27日付朝刊掲載)
日本財団会長 笹川 陽平 遅れる日本のイノベーション国際社会が革新的な技術や発想で新たな価値を生み出すイノベーションで大きく変わる中、日本の立ち遅れが目立っている。 このままでは資源を持たず、世界の最先端を行く少子化で社会が縮小しつつあるわが国は存在感を失い、国際社会の中に埋没する。原因は多岐にわたるが、指導者の責任感と覚悟が事態を打開する要点の一つと考える。 |
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日本の会社企業は令和3年時点で178万社、うち従業員1000人以上の大手企業は約4000社に上る。社長が会長に退くと、後継の新社長は前社長の経営方針を引き継ぐのが一般的な形だ。 継続と安定を尊重する経営スタイルだが、変化を求めるイノベーションは生まれにくい。新たな技術や商品の開発には常に失敗のリスクが付きまとい、安定経営と相容れない面があるからだ。 逆に言えば、万一の場合にも全責任を取る経営者の覚悟が実感できれば、イノベーションに向けた現場の士気は盛り上がる。 オーストリア生まれの経営学者P・ドラッガーは「(経営者には)部下1人1人の強みを可能なかぎり生かす責任がある」と語っている。責任は双方の信頼関係があって初めて全うできる。 そんな思いで筆者は職員に「すべての責任は私がとる」と語り、積極的な取り組みを求めてきた。その意味で、1990年代初頭に始まったバブル崩壊後の経済界の姿には疑問と不満を持つ。 バブル崩壊前、わが国の賃金は先進国が加盟する経済協力開発機構(OECD)の上位にあった。しかし、その後の「失われた30年」で、現在は38カ国中25位に落ち込んでいる。国民総生産(GDP)も中国、ドイツに抜かれ4位に後退した。企業の研究開発費も、右肩上がりで増える米国、中国に大きく水をあけられている。 その一方で、財務省の法人企業統計によると、日本の企業の内部留保(利益剰余金)は23年3月期時点で554兆円と15年間で2倍に膨らんでいる。 何故、もっと多くを新規投資や従業員の賃金に還元できなかったのか。新規投資の少なさはイノベーションの遅れを招き、賃金の低さは非婚・晩婚化、さらに少子化を加速させる原因にもなっている。 責任と覚悟の欠如は政治の世界にも共通する。例えば自民党派閥の政治資金規正法違反事件に端を発した「政治とカネ」の問題。誰が見ても明らかな政治資金の透明性の確保について、自民党の姿勢は最後まで潔さを欠き、いたずらに混乱が長引く結果を招いた。 野党各党の動きも自民党攻撃に収斂(れん)され、国内外に喫緊の課題が山積する中、日本の将来に対する政策論争は希薄だった。政治とカネの問題を軽く見るつもりはないが、国民が求める政治の姿には程遠い感がある。 7月に行われた東京都知事選で、広島県安芸高田市元市長の石丸伸二氏が当初予想に反して次点に入ったのは、政治の現状に対する有権者の不満、既成政党に対する忌避感が色濃く投影された結果と思う。かつてこの国を牽引した霞が関の官僚が近年、精彩を欠くのも政治の混迷に一番の原因がある。 極論すれば、わが国で大胆な改革、イノベーションが進まなかったのは、経済界、政界が変化より現状維持を求めた結果と言えるのではないか。 首相としての矜持 以前、本欄でも紹介したが、日本財団が今春、米国、中国、インドなど6カ国の若者(17〜19歳)各1000人に「自国の将来」について尋ねたところ、「悪くなる」と答えた日本の若者は35%、「良くなる」(14%)の2倍を超え、6カ国中で最も多かった。 米ギャラップ社が今年、各国の企業を対象に行なった会社員の「やる気」調査では、日本はわずかに6%。中国の3分の1、米国の5分の1以下だったという。 わが国の閉塞状態を如実に示す数字である。そんな中、岸田文雄首相は今月14日、「自民党が変わることを示す最もわかりやすい最初の一歩は私が身を引くことだ」と述べ、9月の自民党総裁選に出馬しない考えを表明した。 総裁選での勝利が見通せない、退任後の影響力保持が狙い、といった見方も報じられているが、筆者は自民党総裁としての責任感、一国の首相としての矜持を示したと評価する。 日本に潜在力は十分にある わが国には技術立国として蓄積された豊富な知恵や知識、さらに優秀な人材もたくさんいる。欠けているのは、それを有効に活用し、機能させる社会の仕組みと熱気である。そのためにも、政治家にはこの国が目指すべき姿・将来像を、経営者には企業が社会で果たすべき役割を、躊躇うことなく積極的に語ってほしく思う。 国を主導する政治家や経営者の責任感と覚悟が社会全体で実感され、共有された時、日本で世界をリードするイノベーションが生まれる可能性は飛躍的に高まり、この国が長い低迷から脱する道も見えてくる。 |

遅れる日本のイノベーション
