障害者支援の在り方を抜本的に変えるばかりか、膨張する社会保障費を抑制する画期的な試みと言えるが、同様の試みを広げていく上で課題は何か探ってみた。
出荷待つホウレンソウ=水耕栽培で驚くほど成長が早い工場は地元の社会福祉法人「チャレンジドらいふ」(白石圭太郎理事長)が運営していたB型事業所を廃止して3月、一般事業所「ソーシャルファーム大崎」に一新した。14棟の大型ビニールハウスでホウレンソウを水耕栽培し、B型事業所から移った障害者11人が働いている。
現在、1日4時間、週5日働く。一般事業所の従業員として最低賃金制度(宮城県の場合は1時間当たり923円)の適用を受け、月7〜8万円を賃金として受け取る。B型事業所時代の「工賃」月1万数千円から大幅に増え、障害者手当を含めると月12〜13万円、自立の道も拓ける。工場を訪れると、障害者の一人(24)は「収入が大幅に増え仕事も面白い」と笑顔を見せた。
事業は宮城県とチャレンジドらいふ、日本財団の連携プロジェクトとしてスタートした。日本財団がビニールハウスなど工場の整備費2億6800万円を助成し宮城県も初年度運転資金として一千万円を補助している。
三菱ケミカルグループ(本社:東京都千代田区)からホウレンソウの水耕栽培のノウハウの提供を受け、年間17回、計52トンを収穫、同グループの支援でコンビニに卸し、年間4500万円の売り上げを目指している。
B型事業所は現在、全国で約1万5000を数え、障害が比較的重い約35万人が利用する。障害者総合支援法に基づく助成制度があり、障害者20人程度の事業所で国と自治体から年間約4千万円支援される。総額は約8000憶円。情勢金で事業所の運営がそれなりに成り立つ面があり、新規事業の開拓など活気を欠く面が問題となってきた。
その分、今回の取り組みに対する注目度は高い。何より目を引くのは技術指導から卸先まで大手企業が全面的に支援している点だ。財務省の法人企業統計によると、大企業(資本金10億円以上)の内部留保は2022年度、511兆円と過去最高を記録している。
我が国は「失われた30年」で国際社会の中で大きく落ち込んだ。大企業が従業員の待遇改善や新規投資に消極的だったのが一因との指摘もある。ここは巨額の内部留保を活用して企業の社会的責任(CSR)を強化するよう、社会全体で大企業に求めていく手もあるのではないか。
ホウレンソウという農産物の生産に着目した点も大きいと思う。我が国の食料自給率は38%(カロリーベース)と先進国の中で最低の水準にある。自給率のアップは食の安全保障面からも急務で、の必要性が指摘されており障害者が比較的取り組みやすい分野のような気もする。ちなみに三菱ケミカルの関係者によると、ホウレンソウ一つとっても需要はまだまだ高いという。
我が国では少子高齢化に伴う労働力不足やGDP(国内総生産)の2倍を超す「国の借金」の存在など難題が山積している。障害者数は身体障害者、知的障害者、精神障害者を合わせ1150万人(2023年、厚生労働省調査)に上る。
日本財団では全国10カ所を目途にモデル事業所の整備を目指すという。人工知能(AI)の発達で、障害のある人が対応できる職種は増えるはずだ。脱福祉型の取り組みが少しでも広がるよう期待して止まない。