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2023年07月25日(Tue)
「国の対立緩和」を促す民間交流
(産経新聞「正論」2023年7月24日付朝刊掲載)
日本財団会長 笹川 陽平

seiron.png日中関係が厳しさを増す中、新型コロナ禍で中断していた自衛隊と中国人民解放軍の佐官級交流を4年振りに再開、やはりコロナ禍で延期されていた日中医学交流事業の35年記念式典を今月28日に北京で行われることになった。

いずれも笹川平和財団や日中医学協会が、中国戦略学会や中国国家衛生委員会と協力して行う民間主導の交流事業である。6月に実施計画を発表して依頼、多くの反響をいただいた。

両事業の立ち上げ当時、筆者は日本財団理事長として事業内容や方向を決める立場にあり、今回も中国国防部国際軍事合作弁公室などと意見交換をした。そんな経緯もあり本稿では、われわれが中国にどう向き合おうとしているか述べさせていただく。

最も冷却化した日中関係

昭和47年の日中国交正常化から半世紀余を経て日中関係は今、最も冷え込んだ状況にある。5月に広島で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)について、中国は「関係国と共に中国を中傷し、内政に干渉した」として議長を務めた日本を非難した。

国際原子力機関(IAEA) が安全性を認めた報告書に基づき、日本政府が、この夏にも計画する東京電力福島第一原子力発電所の処理水放出に対しても「海は日本の下水道ではない」と科学的根拠を欠く主張で強く反対し、わが国の水産物の輸入を規制する方針を打ち出している。

日本の「言論NPO」と中国の「中国国際伝播集団」が昨年、実施した共同世論調査では、相手国に対する印象を「よくない」と答えた人は日本で87 %、中国で63%に上り、その理由として「両国の政治的関係が友好でない」とする意見が双方とも40%を超えた。

政府間の話し合いはとかく難航する。まして隣国関係となるとさらに難しい。その意味でも政府間交流を促し、補完する民間の対話・交流のチャンネルは一つでも多い方がいい。そんな考えで今回、2つの事業の再開を決めた。

佐官級交流は防衛分野の将来を担う若手幹部が相手国を訪問し相互理解を図る目的で平成13年にスタートした。尖閣諸島国有化に伴う政治的緊張や新型コロナ禍で中断したが、これまでに自衛隊から計13回152人が訪中、中国側から計12回228人が来日している。


継続こそ力となる

今回は7月16日から9日間の日程で自衛隊佐官団13人が中国を訪問して交流を重ね、秋には人民解放軍の佐官団が訪日する。両国政府、防衛当局の評価も高く、継続こそが力となる。10年間の継続事業とする方向で最終的な調整を急いでいる。

一方の医学交流。昭和62年に日中笹川医学奨学金制度として開始し、当初は毎年100人の医師、看護師を留学生として受け入れ、現在は年間30人規模で日本での共同研究や博士号取得を目指すプロジェクトに成長している。

留学経験を持つ医師や看護師は約2300人に上る。平成3年には「結社」を厳しく制限している中国では異例の「笹川医学奨学金進修生同学会」(事務局・北京)も立ち上がり、28日は同学会メンバーや指導に当たった日本側指導教官ら約1000人が人民大会堂で開催される式典に参加する予定だ。

中国では長い歴史の中で多くの王朝が興亡を繰り返した。ただし日中両国が地政学的に切り離せない隣国であることは変わらない。その中で両国は、一時期を除き世界史の中でも稀な穏やかな関係を築いてきた。

世界は今、歴史的な転換点にあり、ロシアのウクライナ侵攻を見るまでもなく「何があってもおかしくない」不安定な状態にある。「海」一つとっても、力による現状変更を進める中国と、法の支配に基づく自由で開かれた海洋の維持を目指す日本では立場が違う。今後、台湾海峡や尖閣諸島をめぐり日中間の緊張が一層高まる可能性が高い。

来年の米大統領選に向け民主、共和両党が強硬な対中政策を競い合う気配もうかがわれ、米中間の覇権争いも激しさを増そう。それにつれ日本の役割も大きくなる。日本が間に立つことが同盟国の米国だけでなく中国の利益となるケースも増えるはずだ。

佐官級交流を例にとれば、戦争を最も恐れるのは直接戦う軍人である。信頼できるチャンネルがあれば、誤解や行き違いによる紛争や戦争を少しでも避ける道も拓ける。


国家の関係に必要な長期的視点

医療交流に関していえば、中国の内陸部には今もなお医療提供が薄い地域がある。医療は国の要である。新型コロナのような新たなウイルスが出現する可能性が指摘される中、日中で共同研究を進める意味は大きい。

温暖化対策や日中両国で急速に進む少子化対策など、双方で知恵を出し合い、協力すべきテーマは他にも多くある。同時に国と国との関係は10年、20年の長い視点で見ていく必要がある。厳しい日中関係を前に、そんな思いを強くしている。

タグ:日本財団 中国 国際 正論
カテゴリ:正論







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