2023年01月10日(Tue)
中央アジア諸国の「信頼と期待」に応える努力を
(リベラルタイム 2023年2月号掲載)
日本財団理事長 尾形武寿 ![]() 旧ソビエト連邦の崩壊に伴って1991年に独立した中央アジアのウズベキスタン。古来、シルクロードの中継地として栄え、豊富な地下資源、高い経済成長率を背景に日本との経済・人事交流に意欲を示す。親日国として知られるこの国を昨年11月末、初めて訪問し、今後の交流促進に向け多くの関係者と貴重な意見を交換した。 |
そのうちの一人サディク・サファーエフ氏は92年に将来の指導者育成に向け首都タシケントに設立された世界経済外交大学の学長。元外務大臣で現在も上院第一副議長の要職にある。昨年2月には令和3年秋の外国人叙勲で旭日大綬章を受章され、同9月の安倍晋三元首相の国葬にも国を代表して参列された。
意見交換は中央アジアを取り巻く国際情勢から各国との関係まで多岐にわたり@ウズベキスタンの大統領府、外務省などの中堅職員を日本に派遣し官公庁の現場で研修させるAウズベク語の文法解説が付けた日本語教科書を開発するB日本の筑波大学と協力して毎年、ウズベキスタンでサマースクールを開催し、日本の修士、博士課程の学生と中央アジア諸国の学生の交流を図る―などの提案があった。中国やロシアなどに比べ進出が遅れている日本との関係強化が狙いで、サファーエフ氏は「ウズベキスタンで日本の地位を高め、各国とのバランスを取ることが我が国にとっても非常に重要だ」と強調された。 日本財団ではソビエト連邦崩壊後、この国にキルギス、カザフスタン、タジキスタン、トルクメニスタンを加えた五カ国からトルコに留学する学生が急増したのを受け、2004年に奨学事業をスタートさせ、十年余で三百人を超す学生が卒業。現在、同窓生のネットワークが活発な活動をしている。しかし、16年にトルコで起きたクーデター未遂事件でトルコ政府から事業の閉鎖を命じられ、新たに「日本・中央アジア友好協会」(JACAFA)をアラブ首長国連邦のドバイに設立、19年からアゼルバイジャンを加えた計六ヵ国の学生を対象に奨学事業を再開する一方、筑波大学と協力して修士レベルの留学受け入れを進めている。 今回の訪問は新たに奨学生に選ばれた六ヵ国の計43人に証明書を手渡すのが目的。タシケント市内のホテルで行われた授与式で一人ひとりに証明書を手渡し激励した。ウズベキスタンでみると定員10人に対し応募者は120人。事業に対する関心は高く、授与式後の交歓会では多くの学生が日本への留学希望を語り、サッカー・ワールドカップで話題となった日本人サポーターのゴミ拾いを取り上げ「日本の文化は最高」と語る学生もいた。 中央アジアはヨーロッパとアジアをつなぐ中継地。古代の交易路シルクロードにロマンを感じる日本人は多い。先の大戦でシベリアに抑留された元日本兵が建設に携わったタシケントのナボイ劇場は、二度にわたる大地震で地元の建物の多くが崩壊する中、無傷で残り、現在も活用されている。元日本兵の真面目な取り組みを讃える声は、今回の訪問でも随所で聞かれ、日本に対する信頼と期待の高さを実感した。 外務省が15年に中央アジア四カ国で行った調査で、日本はロシア、中国に次ぐ重要なパートナーに位置付けられ、90%が日本企業の進出を歓迎すると答えた。これに対し中央アジアに対する日本の関心は、外交を含め今一つ希薄である。一人の女性が生涯に産む子供の数(合計特殊出生率)を21年で見ると、日本の1.30に対しウズベキスタンは2.80。街を歩くと若者の姿が目立つ。民間団体として限りはあるが、日本を理解する次代の若者が少しでも多く育つよう一層、取り組みを強化する必要性を痛感した。 |