2023年01月06日(Fri)
改めて問う「政治家とは何ぞや」
(産経新聞「正論」2023年 1月5日付朝刊掲載)
日本財団会長 笹川 陽平 ![]() |
縮小する政党や政治家への期待
各種世論調査を見ても、政治に対する信頼は著しく低下し、言論NPOが令和元年に行った調査では70.9%が「我が国を取り巻く諸課題の解決を政党や政治家に期待することはできない」と答えた。 この傾向は若者層に顕著で、日本財団が同年秋に9カ国の17〜19歳各1000人を対象に行なった調査でも、「自分の国が良くなる」と答えた日本の若者は10%を切り、約4倍の38%は逆に「悪くなる」と答えている。 次代を担う若者が、低迷する政治の現状により敏感に反応しているということであろう。これでは社会を健全に維持していくのは難しい。背景には、急ぐべき諸課題の解決を先送りしてきた、この国の戦後政治がある。 例えば世界の先頭を切って進む少子高齢化。働き手が減る一方で高齢者が増えることにより、担い手の負担は急増する。現に1人の高齢者(65歳以上)を支える現役世代(15〜64歳)の数は、昭和50年の7.7人が平成27年には2.3人になり、令和47年には1.3人に減る。 こうした数字の変化は総務省統計局の人口推計などで早くから予測できた。年金や医療など国の基幹システムの維持が難しくなっている現状は、政治が手をこまねいて問題を先送りしてきた結果である。国民に消費税増税など新たな負担を求める勇気と決意が欠けていた。 政策を競い合うのが本来の形 代わりに国債による財源確保策が優先された。今や地方債を加えた発行残高(借金)はGDP(国民総生産)の2倍を超え、将来に向けた政策投資の幅を狭め、社会の活気を奪っている。4半世紀前、世界のトップ水準だった日本人の年収は平成3年、世界22位=経済協力開発機構(OECD)統計=まで落ち込み、若者の閉塞感を一層、深める結果を招いている。 政治はポピュリズム(大衆迎合主義)の傾向を強め、与野党が聞こえの良い政策を競い合うようになった。各党が、それぞれが目指す日本の将来像を示し、国民の支持を競うのが政党政治の本来の在り方であり、その姿を取り戻すべきである。 財源の裏付けなど、実現に向けた具体的な道筋がはっきり見えない提案では、本気度も分からず、有権者も政権選択の判断ができない。政治が健全に機能するには健全な野党の存在が欠かせない。各党は第一党の支持率が7%前後に留まる現実を真剣に受け止める必要がある。 わが国の議会政治に名を残す齋藤隆夫は昭和15年、帝国議会で行った “反軍演説”で「身をもって国に尽くすところの勢力が足らない」と不安定な政局を批判し、衆議院議員を除名された。政治が低迷する今こそ、議員バッジを外す決意を持って政治に向き合う真の政治家の登場を待ちたく思う。 昨年、第2次岸田内閣の閣僚4人が不祥事や失言で相次いで更迭された。うち葉梨康弘前法相は問題となった死刑軽視発言のほかに、「法務大臣になってもお金は集まらない。なかなか票も入らない」と語っていた。パーティーでの“受け”を狙った発言だろうが、政治家の発言としてあまりに能天気で緊張感を欠く。 国際社会は未だ新型コロナ禍、ウクライナ戦争の終息が見えず、核使用の可能性さえ懸念されている。各国による食料やエネルギー資源の争奪戦も激しさを増し、カロリーベースで自給率38%(令和3年度)の食料、同12.1%(令和元年度)のエネルギーの安定確保など喫緊の課題も山積している。 若者層の負担増をどう抑え、労働力不足解消に向け優秀な外国人材をどのように受け入れていくか、未だ「解」が見えない難題も多い。中国の軍事大国化、北朝鮮の相次ぐミサイル発射実験で安全保障環境も厳しさを増している。日本は戦後、安全保障を日米同盟に依存し経済を優先させてきた。現実的な脅威が増す中、安全保障を「二の次」にする姿勢は最早、許されない。どうすれば戦争や紛争に巻き込まれる危険性を減らすことができるのか、国民も防衛費増額を巡る国会審議を見守っている。 力強い政治の再生を願う 何ら手を打たなければ日本は国際社会の中に埋没し、存在感を失う。筆者は東日本大震災直後の平成23年、本欄に「これでいいのか、政治家諸君」を投稿し、混乱する政治の再生を求めた。 政治に期待できなければ投票率は下がり、政治の劣化は一層進む。今回、改めて政治の在り方を問うのは、力強い政治の再生を願ってのことだ。1人でも多くの政治家が、この国を背負って立つ覚悟と気概を新たにされるよう願ってやまない。 |