最後のチャンスしかし、ウズベキスタンなど中央アジアの国々との近年の交流は今一つの状態にある。加えて中央アジアの国々は今、急速に変わりつつある。ある意味で、我が国が“親日”の強みを生かす最後のチャンスと思われ、一層、積極的な中央アジア外交に転換するよう期待する。
今回の訪問は日本財団が2019年からウズベキスタンとトルクメニスタン、キルギス、タジキスタン、カザフスタンの中央アジア5ヵ国にアゼルバイジャンを加えた計6カ国で実施する奨学制度で新たに奨学生に選ばれた計43人に、その旨を記した証明書を手渡すのが目的。首都タシケント市内のホテルで授与式が行われ、日本財団の尾形武寿理事長から学生一人ひとりに証明書が手渡された。
2度の大地震に無傷で残る滞在中、先の大戦でシベリアに抑留された元日本兵が建設に携わったナボイ劇場や日本人墓地を訪れた。ナボイ劇場は戦後、2度にわたって現地を襲った大地震で街がほぼ崩壊する中、無傷で残り、今も“現役”のオペラハウスとして使われ、今も元日本兵の貢献をたたえる声が引き継がれている。
先の大戦では約60万人の日本兵が旧満州などでソ連(当時)に抑留され、うち約2万5000人がウズベキスタンに送られた。資料によると、ナボイ劇場の建設に従事したのは257人。うち2人を含め計813人が現地で死亡し、ウズベキスタンの13カ所の墓地に埋葬されている。
ナボイ劇場は茶色っぽい煉瓦作り、3階建ての堂々たるビザンチン風建物。夕方に訪れたため既に閉館していたが、総床面積1万5000平方メートル、中には1400席の客席が設けられているという。正面に向かって左側の壁面に取り付けられたプレートには建物の由来が3ヵ国語で記され、日本文には「1945年から1946年にかけて極東から強制移送された数百名の日本国民が、このアリシェル・ナヴォィー名称劇場の建設に参加し、その完成に貢献した」とある。
劇場から南西方向にしばらく移動した一角にも日本人墓地があり、地元民の墓と同様にきれいに整備され、他地区にある日本人墓地の場所や埋葬れている人数を示す碑も設けられていた。既に日没を過ぎていたが、墓を見守ってくれている人だろうか、日本語で「こんにちは」と声を掛け、親切に案内してくれた。
墓地のすぐ隣には、地元の研究者が元日本兵の貢献を研究し、遺品などを展示した資料館があり、もう少し広い場所が必要とのことで、隣接した建物の改修工事が進められていた。近くには日本から送られた桜の木も目に付いた。桜が送られた経緯は、中山恭子・元ウズベキスタン大使の著書「ウズベキスタンの桜」=KTC中央出版=に詳しく記されている。
こんな親日的な雰囲気がどの程度、国民に共有されているか、何人かに聞いてみた。そのうちの一人、横浜国大への留学経験を持つ政府の役人は「日本の進出は中国や韓国に比べ大幅に遅れているが、車やテレビなど日本の技術に対する信頼は厚い。誰もが日本に強いあこがれを持っている」と語る。
元日本兵の貢献だけでなく、この国でもヒットしたテレビドラマ「おしん」や日本の漫画文化の影響も大きいようで、授与式の会場では「将来は日本に留学したい」、「日本の企業はもっと積極的に中央アジアに進出してほしい」といった声が多く聞かれた。
今も”現役”で活躍するナボイ劇場日本に対する評価、信頼は80%の高率外務省が今年1月にトルクメニスタンを除く中央アジア4ヵ国の男女各300人を対象に実施した対日世論調査でも、日本との信頼関係や地域に対する我が国の貢献を高く評価する声が80%前後に上り、「今後の重要なパートナー」として日本に期待する声は、歴史的に関係が深いロシア、中国、トルコに次ぎ4番目に位置している。
日本に対する信頼や期待が一部の親日家に限らず、広く国民に共有されていることを示す数字であろう。我が国が今後、中央アジア各国との連携を強化していく受け皿は十分あると実感する。