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2022年11月07日(Mon)
「障害者の実力」示す国会図書館のデジタル化作業
(リベラルタイム 2022年12月号掲載)
日本財団理事長 尾形武寿

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日本財団は障害のある人の「はたらく」を応援するため2015年に「はたらくNIPPON!計画」を立ち上げ、一九年からは「はたらく障害者サポートプロジェクト」に改称して障害者の就労促進に取り組んでいる。

障害者総合支援法は障害福祉サービスとして就労移行支援、就労定着支援事業のほか、就労継続支援として「A型」、「B型」の二つの事業を定めている。二一年現在、A型事業所は全国で約三千九百カ所、B型は約一万三千八百カ所、利用者はA型が約七万五千人、B型が約二十八万人に上る。

A型が労働契約を結び最低賃金制の適用を受けるのに対し、B型は雇用契約、最低賃金制の適用はなく、支払い名目も「工賃」。全国の平均額は一万五千円余に留まり、多くが家族と同居、障害者基礎年金の他に生活保護を受けて暮らす。障害者一人を受け入れるごとに毎月十数万円の報酬(補助金)が支払われる仕組みになっていることから、改善に向けた事業者の意欲の低さを指摘する声のほか、新型コロナウイルス禍に伴う労働市場の冷え込みも加わり障害者就労の促進は厳しい状況にある。

そんな中、国立国会図書館が二〇年度からスタートした書籍など所蔵資料のデジタル化事業で、二一年度から五年間に新たに二百億円が投入される動きを知り、国会図書館や事業推進に尽力する国会議員の方々に障害者施設で請け負う余地がないか、聞いて回った。

最大のハードルは過去に作業実績がなく、一般競争入札に参加する資格が取れない点にあった。最終的に、国や地方公共団体が物品等を調達する場合、障害者就労施設を率先する障害者優先調達推進法を活用する手があることを知り、昨年、初めて入札に参加、何とか一千二百冊分を落札し、作業を障害者就労施設「東京コロニー」の東村山施設に委託した。作業はスキャナーを使った画像データへの変換から目次や管理データの作成まで幅広い。

資料の余白や色合いの調整など精密な作業が求められ、国会図書館をはじめ関係者には「障害者には無理」との反応が強かった。しかし、結果はほぼ百点満点の高い評価。これを受け、今年度は三億七千万円、約三万冊分を受注でき、東京コロニーをはじめ山形、宮城、熊本など計八カ所の施設に作業を委託することになった。

入札に当たり、総合印刷会社「凸版印刷」(本部・東京)に協力をお願いし、専門家の派遣や研修生の受け入れを快く引き受けてもらう幸運もあった。八カ所の施設にはスキャナーやパソコン、収納庫等計七億五千万円の助成を行い、筆者も各施設の受け入れ態勢を自ら確認し万全を期した。

作業に従事するのは清掃など周辺作業も含め一施設当たり約二十人。書籍の運送費などを除き全額、当該施設に配分され、A型事業所の賃金は十三万円余、B型事業所の工賃は五万円超、現在の約三・二倍に増える見通し。これによりB型事業所の障害者は生活保護から脱却、自立の道も拓けてくる。大手印刷会社が多くを請け負っていた専門性の高い国家事業に障害者施設が参入する意義は大きく、貴重な文化遺産である蔵書を後世に引き継ぐ作業に関係者の士気も高い。

厚生労働省が今春公表した資料によると、国内の障害者は身体障害、知的障害、精神障害を合わせ九百六十五万人上る。障害者が持つ幅広い能力や可能性に対する社会の認識を広げるには、今回のような積極的な取り組みの蓄積が欠かせない。それが障害者全体の社会参加、ひいては急速に進む少子化時代の共生社会の実現につながる。来年度以降もデジタル化作業を受注すべく決意を新たにしている。









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