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2022年09月22日(Thu)
30年の原子力発電20〜22%
若者の6割が前向きに評価
喫緊の課題は温暖化防止 ― 脱炭素

日本財団特別顧問 宮崎 正
風の香りロゴ
「もっと高めるべき」17.6%、「この程度とすることに賛成」43.6%、「もっと下げるべき」23.7%、「完全に止めるべき」15.1%―。政府が昨年10月に公表した第6次エネルギー基本計画で、2030年の電源構成のうち20〜22%を原子力発電としたことに対する17〜19歳1000人の反応である。

我が国は50年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルの達成を目指しており、エネルギー基本計画はその実現に向けた“経過目標”でもある。

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2030年の原子力発電目標20〜22%について(日本財団18歳意識調査 第48回テーマ「エネルギー」から抜粋)


再稼働は7基 発電量の5.9%

東日本大震災(2011年)前、わが国では計54基の原子力発電所が稼働し総発電量の約30%を占めていた。しかし東電福島第一原発事故後、「世界一厳しい」とされる原発の新規制基準が設けられ、21基が廃炉となったほか、電力各社が原子力規制委員会に審査を申請した27基のうち17基が“合格”したものの再稼働にこぎつけたのは7基、総発電量に占める割合も5.9%と30年の目標値には程遠い状況にある。

一方でロシアのウクライナ侵攻という予期せぬ事態で天然ガスが不足し、多くの国で二酸化ガス(CO₂)の排出量が多い石炭、石油発電が増えるなど脱炭素に逆行する流れが顕在化。温暖化による異常気象で熱波や旱魃、豪雨災害や巨大台風などが激しさを増し、世界各地で甚大な被害が発生している。

加えて国内では6月、季節外れの厳しい暑さで東電管内に電力需給逼迫注意報が発令され、政府が7月1日から3ヵ月間、一般家庭や企業に節電を要請する事態となった。この夏は何とか乗り切れる情勢だが、電力需要は例年、冬場に最も高まり、今後も切迫した情勢は続く。これを受け政府は8月、来夏からの既存の原発7基の再稼働や次世代型原発の開発などを発表し、福島原発事故以来、封印してきた原発政策の見直しに踏み切った。

冒頭の数字は日本財団が7月末から8月上旬にかけコンピューターで行った18歳意識調査の結果で、半数以上が国のエネルギー政策に関心があるとしているほか、7割弱はエアコンや照明方法の見直しなど節電に取り組んでいると回答。さらに電力供給の予備率が1%を下回る事態が予想される場合に実施される計画停電に関しても約4割が「行ってもよい」と答えている。

温暖化防止の決め手が、原因となる温室効果ガスの排出削減―脱炭素にあるのは論を待たない。CO₂を発生しない太陽光、風力など再生可能エネルギーや水素発電などで必要な電力を確保できる体制を実現するのが理想である。しかし、現状ではコスト・技術両面から早期の実現は難しい。安全性が確認された原発の再稼働で電力不足をカバーする一方で、再エネなどの開発を急ぐのが現実的な選択と考える。

もっとも東電福島原発事故を見るまでもなく原発はひとたび事故が起きれば未曽有の被害が発生する。福島原発の廃炉作業は事故から10年以上経た現在もいつ終わるのか、未だにめどが立っていない。新増設に関しては多分に判断に迷う面がある。しかし現存する原発の将来の廃炉処理や原子力の平和利用を研究する上で、原子力に関わる人材の育成・確保は欠かせない気がする。



「止めるべき」は6人に1人弱

原発再稼働など政府方針に対し「70%が支持」(日経新聞)といった世論調査結果も報じられている。電力不足のほか、ロシアのウクライナ侵攻後、英、独、仏など各国が相次いで原発重視政策を打ち出した影響などで東電福島原発事故に伴う原発アレルギーが緩和されつつある、ということであろう。

今回の日本財団の調査結果では原発を「完全に止めるべき」との回答は15%となっており、質問の形が違い一概に比較しにくいが、恐らく全世代平均より低い数字と思われる。それだけエネルギー政策や原発の在り方に柔軟な若い世代の考えが反映されている気がする。

温暖化が人類の社会・経済活動の結果であり、元の環境に戻すのは最早、不可能との指摘も聞かれる。仮にそうであっても地球環境を少しでも健全に維持する努力は欠かせない。最大かつ喫緊の課題は脱炭素の取り組みである。少なくとも政府には、30年の電源構成、とりわけ原発20〜22%をどう実現していくのか、誰にも分かる説明を求めたい。









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