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2022年09月21日(Wed)
脱炭素実現へ主導的役割果たせ
(産経新聞「正論」2022年 9月20日付朝刊掲載)
日本財団会長 笹川 陽平

seiron.png 猛暑となった7月、政府は電力需給の逼迫を受け全国の家庭や企業に3ヵ月間の節電を要請した。平成27年夏以来7年ぶりで、夏場は何とか乗り切れる見通しとなったが、電力需要は冬場に最も高まる傾向にあり、綱渡り状態は今後も続く。

ロシアの侵攻で思わぬ変化

電力需給逼迫には多くの原因が指摘されているが、根底には地球温暖化に伴う異常気象がある。熱波、干ばつ、異常豪雨、大規模山林火災など想像を絶する被害が世界に広がり、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は「人間の社会・経済活動に起因する」としている。

これを受け2015年の第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)では、今世紀末までに世界の気温上昇幅を19世紀後半の産業革命前に比べ1.5度以内に抑える努力目標 (パリ協定)を採択。わが国も温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルを50年に実現するとしている。

以後、原因物質である温室効果ガスの削減に向け、燃料を二酸化炭素(CO₂)の排出量が多い石炭、石油から天然ガス、さらに太陽光など再生可能エネルギーに切り替える流れが国際社会の主流になりつつあった。しかし、ロシアのウクライナ侵攻が各国の取り組みに思わぬ変化をもたらしている。

ロシア産天然ガスの供給が不安定化し、各国の争奪戦が激化する中、天然ガスの2倍のCO₂を排出するものの安価で手に入りやすい石炭の需要が高まり、国際エネルギー機関(IEA)は22年の世界の消費量がピークだった9年前の80億トン前後に増えると予測している。

一方で抑制傾向にあった原子力発電に対する期待も各国で急速に高まりつつある。年末までに稼働中の原子力発電所3基を停止するとしていたドイツでは稼働延長を求める世論が急速に高まり、政府は4月までの延期を決めた。仏、英両国政府は新たな原子炉建設計画を相次いで打ち出している。


原子力政策の見直しに踏み切る

わが国も岸田文雄首相が8月24日のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、来夏からの既存原発7基の再稼働や次世代型原子力発電所の開発などを打ち出し、東日本大震災(平成23年)での東京電力福島第一原発事故以降、「新増設などを想定していない」としてきた原子力政策の見直しに踏み切った。

東日本大震災前には計54基の原発が稼動していた。福島第一原発事故を受け安全審査が厳しくなり、震災後、再稼働したのは6原発計10基、21基は廃炉となった。総発電量に占める割合も約30%から5.9%に減り、代りに太陽光発電が令和2年度時点で791億キロワット時と大幅に増え、全体の9.3%を占めるまでになっている。

 万一、電力供給の余力を示す予備率が1%を下回る事態が予想される場合は、各地域をグループ分けし、順次、停電する「計画停電」が実施される。戦後の日本社会は企業も国民も電気、水が豊富にある環境を当然の前提として成り立ってきた。

国民の生活は調理から洗濯、冷暖房まで電化が進んでいる。大災害発生時を除いて長時間の停電経験を持たない国民が、どこまで計画停電に耐えられるか、危うさも感じる。電力需要に備え、カーボンニュートラルに道筋をつける意味でも昼夜を問わず安定的に発電できるベースロード電源は欠かせず、原発はその条件に合う。

次世代型原子炉の開発も原子力をどう安全に取り込んでいくか、将来の課題に備える上でも意味があろう。太陽光の活用は当然だが、天候に左右される難点がある。火山が多い日本では地熱発電の開発に力点を置くのも一考である。

日本財団が7月末から8月上旬にかけ全国の17〜19歳1000人を対象に実施したオンライン調査では40.4%が計画停電を「行ってもよい」と回答。政府が第6次エネルギー基本計画で、令和12年の電源構成の20〜22%を原子力発電としている点に対しても61.3%が「賛成」あるいは「もっと高めるべき」と答え、電力需給の逼迫を理解し、原発の活用を柔軟に受け入れる若者の姿をうかがわせている。


温暖化防止最優先策は脱炭素

近年、グリーンランドの氷床や北極、南極の氷河の融解が進み、これに伴う海面上昇で島嶼国が海に沈む事態さえ懸念されている。温暖化被害はどの国も例外なく受ける。被害を少しでも減らせるには脱炭素の取り組みを強化し、少しでも温暖化のスピードを遅らせるしかない。そのためには国際社会の危機感の共有が欠かせない。

日本は平成9年に開催されたCOP3で温室効果ガスの5%削減と国ごとの排出削減目標が初めて打ち出された京都議定書をまとめた経験を持つ。近年は水素を燃焼して電気エネルギーを取り出す水素発電や大気中のCO₂を回収する直接空気回収(DAC)技術の開発も進んでいる。わが国が今後、脱炭素の実現に向け国際社会の中で主導的役割を果たすよう期待する。

タグ:日本財団 温暖化 正論 炭素
カテゴリ:正論







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