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2022年07月05日(Tue)
ウクライナ侵攻、脱炭素化にも影響
温暖化による海面上昇をどう歯止め
「海に沈むツバル」は現実の脅威
日本財団特別顧問 宮崎 正
風の香りロゴ
「海に沈みつつあるツバル」。最近、こんな言葉を耳にする機会が増えた。温暖化の進行に伴う海水の膨張に加え、南極やグリーンランドの氷床が溶けて海に流れ込みことで顕著になりつつある海面上昇に対する警告でもある。

温暖化を巡っては2015年にパリで開催されたCOP21以来、「2050年温室効果ガス実質ゼロ」が世界のスタンダートとなり、SDGs(持続可能な開発目標)14は「海の豊かさを守ろう」と訴えている。実現するには、温室効果ガスの削減―脱炭素化の取り組みを一段と強化するしかない。


高まる石炭、石油への依存度

然るにロシアの唐突なウクライナ侵攻に対する経済制裁の一環として、英米やEU(欧州連合)、G7がロシア産の石炭や石油、天然ガスの輸入を制限した結果、各国がエネルギー不足に陥り、石炭、石油による火力発電への依存度を高めるなど脱炭素の流れに逆行する動きも出ている。

脱炭素化は、石炭・石油中心の火力発電の燃料を、同じ化石燃料でもCO₂の排出量が少ない天然ガス中心に切り替える一方で、太陽光発電など再生可能エネルギーの開発を急ぐ、というのが世界の潮流だったと思う。しかし、特にEU諸国で多くを占めたロシア産天然ガスの輸入が経済制裁で大幅に減り、その分、石炭・石油への依存度が高まる結果を招いている。

日本も50年の温室効果ガスゼロに向け、「30年に温室効果ガス46%削減」を打ち出す一方、同年の電源構成を石油等31%、再生可能エネルギー22〜23%、石炭19%、天然ガス18%、原子力9〜10%、水素・アンモニア1%としているが、東電福島原発事故に伴う原発再稼働の難しさや、折からの円安に伴う輸入価格の高騰も加わって、今後、見直しが必要な事態も出てくるのではないか。


「今世紀末までに最大1.1メートル上昇する」

近年の異常高温や豪雨災害、台風やサイクロンの巨大化、海洋の酸性化など、温暖化に伴って世界で起きている事態はどう見ても尋常ではない。脱炭素化は“待ったなし”の状況にあり、その一つである海面上昇について、IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)は19年9月に「今世紀末までに最大1.1メートル上昇する」と警告する特別報告書を公表した。

南極の氷の解ける速度が予想より速まっている点などを踏まえ、「2100年までに最大82センチ」としていた13年の予測をさらに上方修正した形で、ここは「海に沈む可能性」が島国だけでなく、国際社会全体が直面する脅威であることを再確認した上で、温暖化防止策を可能な限り強化していく必要がある。

ちなみにツバルはオセアニアに位置し、サンゴ礁に囲まれた4つの島と5つの環礁から成り、面積は26平方キロメートル。インド洋のモルディブに次いで海抜が低く、人口は1万1800人(20年現在)。約半数が住む首都フナフティの平均標高は1・5メートル。海面上昇により甚大な影響が懸念される世界の島嶼国のシンボル的存在で02年7月、ニュージーランドへの移民計画が始まって以降は「環境難民」の言葉も生んでいる。

1990年にカリブ海諸国や太平洋諸国など世界の島国39ヵ国で結成された小島嶼国連合(AOSIS)や38の国連加盟国や20の未加盟国・地域から成る小島嶼開発途上国(SIDS)のメンバーでもある。AOSISやSIDSは海面上昇について産業国を中心とした炭素排出国を「加害者」とした上で、早期の防止策と被害者である島嶼各国への資金提供を求めている。

そうした動きを“政治的”と批判する向きもあるようだが、温暖化の原因が先進各国から輩出された温室効果ガスにあるのは間違いなく、批判は当たらないと思う。6月27日から5日間、世界各国の政府や民間団体、日本からは日本財団や笹川平和財団も参加して、ポルトガルの首都リスボンで開催された第2回の国連海洋会議でも海面上昇が主要テーマの一つになった。

多数のサイドイベントも開催されており、ウクライナ情勢の影響も含めどのような議論が行われたか、あらためて注目したい。







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