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2022年06月08日(Wed)
海底に堆積する微細なマイクロプラスチック 人体に悪影響を及ぼす可能性
当面の頼みは個人の削減努力
日本財団特別顧問 宮崎 正
風の香りロゴ
深刻化する海洋のプラスチック汚染について専門家に聞く機会があった。結論から言えば、海洋に流出したプラスチックは時間とともに細分化されて海底に堆積し、食物連鎖を通じて人体にも悪影響を及ぼす可能性が高まっている。一方で、社会のあまりにも広い分野で活用されており今後も海洋への流出は避けらない、ということのようだ。

隣り合わせの利便性と危険性

利便性と危険性は常に隣り合わせの関係にある。水に溶けにくく分解しにくいプラスチックの特性を考えれば、環境への拡散防止策や危険性がもっと早くから検討される必要があった。しかし現実には使い勝手の良さ故に多彩な利用の追及が先行し、こうした点の研究は“二の次”になった。抜本的な防止策の確立は技術的にも経済的にも当面、難しい情勢にある。

「このままでは2050年までに海のプラスチック量は魚の量を上る」との世界経済フォーラム(ダボス会議)の警鐘を見るまでもなく、当面はレジ袋やストローなどの使用を控え、プラごみの放出を少しでも減らす個々人の地道な努力に期待するしかない、というのが率直な感想だ。

プラスチックは1950年代に大量生産が始まり、60年代以降、半世紀余で20倍以上に増えた。世界の総生産量は約83億トン、8割が埋め立てや環境中に廃棄され、現在も毎年800万〜1000万トンが海に流入している。1億5千万トンが海中に存在すると推計されているが、うち海面に浮かぶのは1%以下の44万トン。99%以上の行方は不明とされている。


“プラスチックの墓場”

海洋研究開発機構(JAMSTEC)は2021年春、有人潜水調査船「しんかい6500」を使った調査で、房総半島南東約500キロ、約6000メートルの深海に化学繊維製の衣類や食品包装などプラスチックごみが集積しているのを確認した。国内から流出したプラスチックごみや東アジア、東南アジアから黒潮に乗って日本近海に運ばれてきた海洋ごみによる「プラスチックの墓場」で、四国沖の「黒潮・最循環域」など世界の海の何カ所かに同様の墓場が存在する可能性が高いと指摘されている。

しかし、大半は海を漂ううち紫外線に晒されて劣化し5ミリメートル以下のマイクロプラスチック、さらに電子顕微鏡でしか見えないナノプラスチックに細分化されて海底に堆積する。4月に3年間の研究成果が発表された日本財団と東京大学による「海洋ごみ対策プロジェクト」によると、海洋を漂うプラスチックは年代を追うごとに小さくなり、海底の泥の中には海面付近に比べより小さなプラスチックが堆積していることが確認された。


排泄されず体内に残る

微細なプラスチック片は、現在は製造や使用が禁止されているPCB(ポリ塩化ビフェニール)など海底に溜まった化学物質を吸着する性格を持つ。これをプランクトンーゴカイーヒラメやカニといった順で食物連鎖が進めば最終的に人間の体内にも取り込まれ、小さいものは排出されず、溶けることもなく体内に残る。

東大・大気海洋研究所の道田豊教授によると、有害な化学物質と結びついているため人体への悪影響は一代で終わらず、遺伝子への影響を通じて子孫にも及ぶ可能性が否定できないという。このためプロジェクトでは、微細化したマイクロプラスチックが生物や人間の体内に取り込まれた後、どのように変化するか、さらに研究を進める予定だ。

プラスチックは炭素(C)と水素(H)、酸素(O)で構成され、理論的には水(H2O)と二酸化炭素(CO2)に分解される。しかし、分解技術の確立はコスト面からも容易ではない。海洋に流出するプラスチックの影響は、過去の流出分も含め恐らく50年、100年先まで続く。最近は大気中にマイクロプラスチックが拡散している可能性も指摘されている。便利なプラスチックの“恩恵”を受けてきた社会全体、とりわけ消費者個々人が、まずは削減に取り組む時である。







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