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2022年04月26日(Tue)
露侵攻契機に難民政策見直しを
(産経新聞「正論」2022年 4月25日付朝刊掲載)
日本財団会長 笹川 陽平

seiron.pngロシアの武力侵攻を受け国外に逃れるウクライナ避難民に政府が手厚い支援態勢を打ち出している。日本に身元を保証する家族や知人がいない場合でも入国を認める方針で、ロシアの無差別攻撃に抗議する国際社会と連帯する意味でも意義ある対応と評価する。

ただし、ウクライナ避難民対策を手厚くすればするほど、国際社会から「消極的」と非難されてきた、わが国の難民政策とのギャップが際立つのは避けられない。これを機に“難民政策”の抜本的な見直しを計るよう提案したい。


避難民は難民に当たらない

 頻回に登場する「難民条約」(難民の地位に関する条約)は、第2次世界大戦後、ヨーロッパで大量に発生した難民を救うため1951年に国際連合で採択された。当初は地域的性格が強かったが、16年後、「難民の地位に関する議定書」が採択され世界に広がった。

わが国は75年のベトナム戦争終結後、ベトナム、カンボジア、ラオス3国で政変に伴って大量に発生したインドシナ難民を受け入れる一方、81年に難民条約に加入、翌年から難民認定制度を導入した。条約による難民の定義は「人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、政治的意見を理由に迫害を受ける恐れがある人」。自国政府による迫害の恐れの有無が要点で、ロシアの侵攻から逃れてきたウクライナ避難民は難民に当たらない。

避難民20人が政府専用機で来日した4月5日の記者会見で、松野博一官房長官が「ウクライナの危機的状況を踏まえた緊急措置」と、あくまで難民認定制度の枠外の特例措置であることを強調したのも、こうした事情を受けてのことだ。条約が成り立った経過もあって現在も国によって解釈に幅があり、中でも日本は出入国在留管理庁が厳格な審査を行ってきた。

制度を導入してから令和元年まで37年間に出された難民申請数は8万1543人、うち難民認定されたのは1%弱の794人。翌令和2年の認定数もドイツの6万3456人、カナダの1万9596人に比べ日本は47人と極端に少なく、国際社会から「経済規模に見合っていない」など厳しい批判を受けてきた。

背景には、文化、宗教の違いのほか治安の悪化を懸念する社会の雰囲気もあった。厳しい政策の結果、難民受け入れに不可欠な就労や教育、医療などを支援する社会的受け皿の整備が遅れ、直ちに門戸を広げるのは物理的に難しい事情もあった。


「準難民」の新たな法的枠組み

こうした点を受け、政府は夏の参院選後の臨時国会に出入国管理・難民認定法の改正案を提出し、「準難民」の新たな法的保護の枠組みの創設を目指す方針と聞く。岸田文雄首相も13日の参院本会議で「難民条約上の理由以外により迫害を受ける恐れのある方を適切に保護するため、法務省で難民に準じて保護する仕組みの検討を進めている」と説明している。

新たな枠組みは、柔軟な対応に道を拓くほか、多くの自治体や企業がウクライナ避難民支援に名乗りを上げ、世論が盛り上がりを見せる中、わが国の難民対策を前に進める力ともなろう。

日本財団もそうした流れを後押ししたいと考える。既に在日ウクライナ人スタッフも加えてウクライナ避難民支援室(仮称)をスタートさせ、避難民の日本への渡航費や生活、教育、就業などを幅広く支援する予定だ。当面、約1000人、50億円規模の支援を想定しているが、ウクライナ情勢の進行を見ながら柔軟に対応したいと考えている。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、510万人に上るウクライナの女性や子供、高齢者がポーランドなど周辺諸国に避難したほか、約710万人が国内で避難生活を送っている。家族や知人を頼り来日したウクライナ人も既に660人を超えている。

国際連合憲章の2条4項は「加盟国は武力による威嚇または武力の行使を慎まなければならない」と規定している。常任理事国であるロシアの唐突なウクライナ侵攻を見るまでもなく、世界はいつ、何があってもおかしくない緊張状態にある。今後、ウクライナ以外でも、さまざまな形で紛争が起き、国を逃れざるを得ない人が出てくる可能性も否定できない。


人道主義が日本外交の柱

難民問題には相手国との関係など難しい問題が付きまとう。しかし、わが国がこれまでと同様、消極的な姿勢で対処していくのは、それ以上に難しい気がする。ウクライナ避難民問題で国内世論がかつてない盛り上がりを見せる今こそ、対応を抜本的に見直すべき好機と考える。世論を追い風に、制度面を含め受け皿を大幅に強化するのも一考である。

日本は戦後平和外交の柱の一つに人道主義を掲げてきた。人道に配慮した取り組みの強化こそ、国際社会の中での存在感を増す。同時に急速な少子化が進む中、優秀な外国人材が日本の魅力を認識する機会にもつながる。
タグ:日本財団 世界 正論
カテゴリ:正論







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