2021年01月11日(Mon)
子ども基本法制定 通報増に世論の高まり
(リベラルタイム 2021年2月号掲載)
日本財団理事長 尾形武寿 子ども虐待、育児放棄、性的虐待、新生児の遺棄、いじめに伴う自殺...。目を覆いたくなるような悲惨な事件が連日のように報道されている。 わが国には「子どもは国の宝」という世界に誇る文化が根付いていたはずである。一昔前は東北地方などの寒村で、貧しさから子どもを奉公に出すことも珍しくなかった。しかし、可能な限り手を尽くした上での苦渋の選択だった。一言で子ども問題と言っても、当時と今では、その本質が違う気がする。 |
戦後、経済発展に伴う大都市への人口集中と核家族化の進行で、互いに励まし助け合うことで多くの問題を解決した地域社会の伝統は失われた。これに変わる新たな社会の仕組みは未だ確立されていない。その一方で、地域社会とのつながりが希薄な都会育ちの若い夫婦には、子どものしつけや教育など、育児に対する知識がもともと少ない。豊かな子ども時代を過ごし自分主義の性格も強い。
子育ての難問に直面すると、その分、強いストレスに襲われ、一番弱い立場にある子どもに、そのはけ口を求めるケースが多いのではないか。自分をコントロールできないまま、衝動的に悲惨な虐待やネグレクトを引き起こしている気がする。 筆者は長く、地域社会でごく自然に行われていた健全な子育てが何故うまくいかなくなったのか、素朴な疑問を持ってきた。同時に時間が経てば、社会の自浄作業で新しい子育て文化が確立されると期待してきた。 しかし、現実は有効な解決手段を見出せないまま、虐待の増加など子どもを取り巻く環境の一方的な悪化を招いている。こうした現実を前にすると、子どもを守る新たな仕組み作りが急務と認めざるを得ない。有力な手掛かりのひとつが、一九八九年に国連で採択された「子どもの権利条約」であろう。「子どもは保護の対象ではなく権利を持つ主体である」との基本的考えに立っており、日本も九四年に批准している。 その際、日本政府は子どもの権利は現行法で十分守られているとして国内法の整備を見送った。改正児童福祉法など子どもの保護や育成を目的とした法律はそれなりに整備されてきているが、大本となる基本法はやはり必要であろう。現に障害者や女性の権利について障害者基本法や男女共同参画基本法が整備されている。 こうした流れを受け、日本財団も長年、「子ども基本法」(仮称)の制定に取り組み、今年九月には提言書を発表した。基本法の早期制定と合わせ、内閣府に総合調整機能を持つ「子ども政策本部」(同)を設置するほか、子どもの権利保障に関し独立した調査権や勧告権を持つ「子どもコミッショナー」(同)制度の新設などを提案している。 個人的には、まず子ども政策本部を設置し、子ども問題を総合的に点検。子どもを健全に育てる上でどのような問題があり、どんな対策が必要か、国民の幅広い理解を得るのが、基本法を早期に制定する近道と考える。 十九年度に児童相談所に寄せられた虐待通報件数は約十九万四千件と前年を三万件以上、上回り過去最高を記録した。虐待件数の増加もあろうが、虐待に対する関心の高まりで通報されるケースが増えた結果と見られている。 次代を担う子どもの健全育成は国の将来に関わる最重要課題である。基本法は一刻も早く制定される必要があろう。急速に進む少子化問題解決の糸口となる可能性も秘めている。虐待報告件数の急増に見られる、子ども問題の解決に向けた国民の声の高まりを重く受け止める必要がある。 |