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2021年11月05日(Fri)
「有事に備える!」 我国の危機感の薄さを憂慮する
(リベラルタイム 2021年12月号掲載)
日本財団理事長 尾形武寿

Liberal.pngパンデミック(世界的大流行)となった今回の新型コロナ禍のような国難にどう向き合うかー。過日、「有事に備える!」をテーマにしたテレビの対談番組に出演する機会があった。番組はBS11の「インサイドOUT特別篇リベラルタイム」。月刊誌リベラルタイムの渡辺美喜男編集長とタレント田代沙織さんの司会で10月15日午後8時59分から約1時間放映された。

対談の柱は日本財団が先に大阪大学と協同で立ち上げた感染症対策プロジェクト。事業概要はリベラルタイムの前号(11月号)に「新たなパンデミックに備え阪大と『国際研究拠点』構築へ」の見出しで掲載された拙稿で紹介させていただいており、対談では事業の狙いとともに、危機意識が希薄な平和国家・日本の現状に対する憂慮を述べさせてもらった。

事業の狙いの第一はプロジェクトの国際的な広がり。内外の識者による運営委員会、事業評価委員会(仮称)を立ち上げ、日本財団と阪大の協同プロジェクトというより、国際社会に広く開かれた事業に育てる方針を説明した。関連して内外の若手研究者が広く参加できるよう奨学金制度も設ける方針だ。第二は近年、弱体化が目立つ基礎研究の再生。学術研究の中心が応用研究に移りつつある中、土台となる基礎科学、基礎医学の後退が今回のコロナ禍での国産ワクチンの開発遅れや医療現場の混乱につながった、との認識を基にしている。

特に応用研究は、あらゆる可能性を前提にして進められる基礎研究の蓄積があって初めて成り立つ。たまたまリベラルライムの前号発売直後に飛び込んできた今年のノーベル物理学賞のニュースでも、そんな思いを強くする一幕があった。三人の受賞者の一人、アメリカ・プリンストン大学の上席研究員・真鍋淑郎氏は「好奇心を持って気候変動の研究を進めてきた。好奇心を持つことが私の原動力だ」と受賞の喜びを語った。9月14日に行われた阪大プロジェクトの発表会見で西尾章治郎・阪大総長が指摘した「研究者の自由な発想で進める基礎研究の中から将来の成果が生まれる」と言葉こそ違え、ともに温暖化や感染症のパンデミックなど予測困難な事態に備えるには、好奇心や自由な発想で取り組む基礎研究こそ欠かせないとする点で共通する。

日本以上に応用研究が主流となりつつあるアメリカなどで、開発費が莫大で民間製薬会社が敬遠しがちなワクチン開発や治療法の研究を国が主導、開発企業に対する支援体制を整備しているのも基礎研究の落ち込みをカバーするのが狙いと理解する。安全保障の観点から生物化学兵器などに備えるのが目的と聞くが、平和憲法の下、戦争の放棄を謳い、安全保障に対する国民の理解が今一つ希薄な我国でこうした対策を採用するのは難しい。

戦後76年を経て、わが国を取り巻く国際情勢は急速に変わりつつある。米中対立が厳しさを増し、台湾や尖閣諸島に対する中国の攻勢も激しさを増している。筆者は長い日本財団事業の取り組みを通じ、中国に多くの友人・知人を持つが、習近平国家主席が何を考えているのか、うかがい知る手掛かりは少ないようだ。ただし個人としては、中国が遠からず台湾統一に向け武力行使も含めた強硬手段に出るのは間違いないと予測する。

その時、国の防衛を日米同盟に頼ってきた我国の安全保障環境は一変する。「自分の国を自ら守る」決意が一段と求められる事態となる。憲法に緊急事態条項も持たない現状では、新型コロナ禍以上の混乱に直面することにもなろう。何よりも憂慮するのは、そうした危機感が未だに国民に共有されていない点だ。「有事」に関し、最も憂えるこの点を最後に重ねて訴え、対談を終えた。







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