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2021年10月07日(Thu)
新たなパンデミックに備え 阪大と「国際研究拠点」構築へ
(リベラルタイム 2021年11月号掲載)
日本財団理事長 尾形武寿

Liberal.png新型コロナウイルス感染の収束が未だに見えてこない。決め手を欠く政府の対策、感染症のパンデミック(世界的大流行)に備えた関係法の未整備、国産ワクチンの開発遅れなど、さまざまな原因があろう。そんな中、一番の原因として近年のわが国の科学技術力の低下を指摘したいと思う。
日本は「物理学賞」、「化学賞」、「生理学・医学賞」を中心に多数のノーベル賞受賞者を輩出し、科学技術大国と目されてきた。新型コロナとの戦いでこれほどの苦戦を予想した人は少なかったのではないか。国産ワクチンを持たないまま外国からの輸入に奔走する現状に対する不満は大きく、日本のワクチンの開発能力、さらにワクチン供給に期待した途上国にも失望感を生んだのではないかと懸念する。

2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)やほぼ十年後のMERS(中東呼吸器症候群)の流行で、多くの国が感染症に対する備えを強化した。しかし、被害が少なかったわが国では、感染拡大防止策や国民の生命、経済への影響を最小限に抑える方策が検討されることはなかった。仮にこの時、感染爆発が起きた場合の公立病院と私立病院、個人医院の役割分担と連携の在り方を決めておけば、全体では余力がありながら感染者用の病床が大幅に不足する現在のような事態は避けられたはずだ。混乱が続く現状を見るにつけ、そんな思いを強くする。

折角のチャンスが活かされなかった背景に、前述した科学技術力の低下からくる緊張感の欠如と大学や研究機関の研究費の大幅不足がもたらす手詰まり感を指摘する声も多い。特に研究費は、国の予算が限られる中、日本では、米国などのように民間資金の投入を含めた財源の多様化も進んでいない。基礎研究能力の相対的な低下に連動する形で、将来を担う若手研究者の数も減少傾向にある。

個人的には、10年度の予算編成に当たり当時の民主党政権が導入した「事業仕分け」の影響が大きかったと思う。対象事業に取り上げられた次世代スーパーコンピューター事業を巡り、「二位じゃダメなんですか?」と発した蓮舫行政刷新担当相(当時)の言葉は流行語にもなった。事業仕分けは予算の無駄を明らかにするのが目的とされ、その功罪は別の機会に譲るとして、大学や研究機関に対する予算配分は以後の自民党政権でも低調に推移し、企業の支援も基礎研究より短期に成果が期待できる応用研究に偏る傾向にある。

基礎研究が弱体化すれば予期せぬ事態、まさかの事態に迅速に対応するのは一層、難しくなる。急速な温暖化の影響で、未知のウイルスによる感染症が今後、比較的短い周期で発生する可能性を指摘する専門家は多い。グローバル化の進行で、ひとたび感染症が発生すれば、たちどころにパンデミックに発展する。現状のままで新たなパンデミックの発生に備えるのは難しい。そんな危機感から、このほど大阪大学と協同して感染症対策の大型プロジェクトを立ち上げることになった。

阪大は江戸時代後期の蘭学者・緒方洪庵が開いた「適塾」以来の長い感染症研究の伝統を持ち、企業や市民と連携する産学、社学協同の気風も強い。十年間に230億円を助成し、90年近い伝統を持つ微生物病研究所を新装するほか、感染症研究の基盤構築、医療人材の育成、さらに科学的エビデンスに基づいた信頼性の高い情報発信など多角的な研究に取り組む計画だ。

目標は国内外の大学や研究機関、研究者が集い、成果を広く発信する感染症研究の総合拠点。阪大と協議の結果、世界の公共財とも言える公共性の高い研究機関の構築を目指すことになった。「民」の協力による新たな研究モデルが、国際社会が注目する感染症研究の拠点となるよう期待して止まない。







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