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2021年08月25日(Wed)
診療看護師制度の導入を目指せ
(産経新聞「正論」2021年 8月24日付朝刊掲載)
日本財団会長 笹川 陽平

seiron.png 新型コロナ禍に伴う外出自粛でやや減っているものの大手病院の外来には相変わらず長い列ができている。「3時間待ちの3分診療」と言われた一昔前よりは改善されたようだが、医療現場は昔も今も飽和状態にある。

医師の指示なしに一定の医療

 経済協力開発機構(OECD)が平成29年にまとめた調査によると、人口千人当たりのわが国の医師数は2・4人、看護師は11・3人。当時の加盟国36カ国で見ると、医師数は32位、看護師数は10位。高齢化に伴う医療需要の急増、多様化を前にすると、このままでは医療の逼迫はさらに進む。

打開策として医師の指示を受けずに一定レベルの診断や治療を行うナース・プラクティショナー(NP=診療看護師)と呼ばれる新たな資格制度を導入する動きが各国に広がっている。看護師が自らの判断で裁量できる医療行為の範囲を広げることで全体の効率をアップし、医師、看護師不足の緩和を図るのが狙いだ。

 その効果と実績は既に各国で証明されている。加えてわが国には高い志と才能を持った多くの看護師がいる。新たな資格制度として早急に取り入れるよう提案する。日本医師会は制度の導入に消極的と側聞するが、国民に対する医療サービが強化されるばかりか、医師の負担軽減にもつながる。

米国では22万人が資格取得

 NP制度は米国やカナダ、オーストラリア、ニュージーランド、オランダ、アイルランド、シンガポールなどで既に導入されている。看護師資格の保有者が修士課程以上の大学院で専門教育を修め国家試験に合格するとNPの資格を得る。医薬品の処方や初診対応、検査の指示や治療を判断する権限を持ち、米国では平成28年時点で看護師の約8%、22万人が資格を取得している。

これに対し、わが国では、「医師でなければ、医業をなしてはならない」とする医師法の定めで看護職は医師の判断、指示がなければ医療行為を行うことはできない。平成26年には一定の範囲で診療行為を行う特定看護師制度がスタートしたが、あくまで医師の指示の下で行う診療補助に留まる。また日本版NPと呼ばれる診療看護師制度もあるが、民間の資格であり、国の資格である外国の制度とは本質的に異なる。

この結果、高血圧の慢性疾患を抱え、訪問看護ステーションの訪問看護を受けながら在宅療養をする高齢者を例にとると、患者を最も知る看護職が、特段の症状の変化もなく同じ薬を飲めば十分と判断しても、医師の指示がなければ使用できない。医師が多忙で指示が得られないまま症状が悪化するケースも少なくない。

さらに全国で約600カ所に上る無医地区には、半径4キロ以内に50人以上が住みながら近隣に医療機関がない。人は医療がなければ生活できず、人口も流出する。訪問看護ステーションは全国約1万3000ヵ所に整備されている。1施設当たり平均5人の看護職員(看護師、准看護師、保健師、助産師)が勤務し、医薬品の処方が認められるだけでも無医地区の医療は大きく前進する。

診療看護師制度が導入されれば、そうした流れを後押しし、高齢者にとって何よりも必要な“診てくれる人”との対話も生まれる。政府が目指す地域包括ケアシステムの構築にもつながろう。

日本看護協会も昨年9月、自民党看護問題小委員会宛てに「ナース・プラクティショナー(仮称)制度の創設に関する要望書」を提出、世界標準に沿った本格的な資格制度の創設を求めている。

日本財団も笹川保健財団と協力して、米国、カナダの大学院の修士、博士課程への留学を希望する看護師に年間1200万円を支援する奨学金制度を立ち上げた。予定は10年間で100人。先進的な両国のNP資格を身に付け、大いに活躍してほしく考える。

医師の補助的立場から解放

診療看護師制度は、看護師を医師の補助者の立場から解放する。診療看護師が先頭に立って看護の目線で看護の在り方を追求することで、今回のコロナ禍でも課題となった71万人の潜在看護師が医療現場に復帰するための条件整備も進もう。新しい看護の在り方を日本から国際社会に発信するケースも期待できる。導入に伴う波及効果は大きい。

令和2年版厚生労働白書は、高齢者人口が35%3900万人とピークに達する20年後には、全就業者の20%に当たる1070万人の医療・福祉従業者が必要になると推計している。

少子化が進む中、短期間に大量の人材を育成するのは難しい。まずは限られた人数で効率的に現場を回す工夫が必要となる。診療看護師制度の導入こそ、その契機となる。

医療現場で働く看護職は平成28年現在で166万人。うち看護師は121万人。90%以上を女性が占める。診療看護師制度の普及は、ポストコロナの時代の女性の社会進出にもつながる。
タグ:日本財団 正論
カテゴリ:健康・福祉







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