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2021年06月03日(Thu)
「福島原発」の処理水放出 中韓の政治利用を防げ
(リベラルタイム 2021年7月号掲載)
日本財団理事長 尾形武寿

Liberal.png政府は四月、東京電力福島第一原子力発電所に貯蔵されている処理水を海洋放出する方針を決めた。処理水は汚染水を浄化処理した後の水で、処理後も微量の放射性物質トリチウムを含むが、国の基準を下回る濃度に薄めて放出され、国際原子力機関(IAEA)も「技術的に実行可能で、国際慣行に沿う」と評価している。
処理水は2011年の原発事故発生直後から敷地内のタンクに貯蔵され、今年四月中旬時点で125万トンに上る。22年秋にも約137万トンのタンクの容量が満杯となる見通し。水蒸気放出や地下埋設処分なども検討されたようだが、多くの国が実施している海洋放出が最も現実的と判断された。案案の定 と言うべきか、専門家と称する学者や野党から批判が出ている。反対するのであれば代替案を示すのが筋である。そうでなければ「反対のための反対」に終わる。 

同時に政府はもっと早く決断すべきであった。立憲民主党の前身である旧民主党の菅直人、野田佳彦両政権、その後の自民党・安倍晋三政権も決断を見送ってきた。事故発生から十年はあまりに長く、そのツケは大きい。立ち直りの兆しを見せてきた地元漁業は新たな風評被害を避けられない。

周辺国にも格好の日本攻撃の材料を提供することになった。韓国では、官民挙げた日本批判が噴出。文在寅大統領は「憂慮は極めて大きい」と語り、放出差し止めに向けた暫定措置も含め国際海洋法裁判所(ドイツ・ハンブルク)への提訴を検討するよう関係部署に指示した。トリチウムを含んだ処理水の海洋放出は韓国の原子力発電所でも行われおり、韓国原子力学会が「韓国国民の被ばく線量は影響を無視できる水準だ」との見解を発表、過度な報道や政治的、感情的な対応の自制を求める事態となっている。

原子力発電所からトリチウムが環境中に放出されている中国も外交部(外務省)が「深刻な懸念」を表明。海洋環境や周辺国の国民の健康に影響をもたらす、などとして、放出決定の撤回を要求している。関連して中国外交部(外務省)の趙立堅副報道局長は江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎の代表作「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」の富士山を原発と見られる建物に置き換え、防御服を着た人物がバケツで液体を流す様子を描いたパロディー画をツイッターに投稿した。あまりに品位を欠く行動である。

文政権は4月の首都ソウルと第2の都市・釜山の市長選で与党候補が大敗、残り任期が一年を切る中、レームダック化しつつある。中国も新疆ウイグル自治区でのジェノサイト疑惑や香港の人権問題などで国際社会の激しい批判にさらされている。ともに日本の弱点である福島第一原子力発電所事故を最大限に活用する政治的意図が透けて見える。

ただし、気になるのは両国とも「十分な説明と情報提供がないまま決定された」と日本政府を非難している点だ。日本批判は両国の常套手段であり、事前に当然、予測できた。批判を防ぐため十分な手を打っていたのか。「科学的に見て問題ない」、「どの国もやっている」といった判断で、対応が手薄だったとすれば問題だ。あらゆる可能性に備えるのが外交の鉄則である。オーストラリア、ニュージーランドを含めた十六ヶ国二地域が加盟する太平洋諸島フォーラム(PIF)や友好国台湾からも深い懸念が表明されている。こうした点を合わせると、政府の事前対策が十分だったとはとても思えない。 

政府や東電に対する不信感は国内でも強い。IAEAは多くの国の専門家を加えた国際的調査団の派遣を検討するとしている。第三者の客観的評価が得られれば、国際的な信用醸成と風評被害の払拭にも役立つ。中国、韓国の専門家も含め、幅広い参加を歓迎するぐらいの度量を示す時である。
タグ:日本財団 リベラルタイム
カテゴリ:海洋







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