2021年04月28日(Wed)
「子供2人の夢」に政府は応えよ
(産経新聞「正論」2021年 4月27日付朝刊掲載)
日本財団会長 笹川 陽平 ![]() |
出生率はさらに落ち込む
「子供を少なく産んで大切に育てる」文化が定着しつつあると言われるが、環境を整備すれば出生率を改善できる余地が十分あることを示す数字と思う。少子化が急速に進む中、年金や医療、介護、教育など社会の基幹システムを現状のまま維持するのは極めて難しい。拙速な見直しを避けるためにも出生率を少しでも改善する必要がある。詳細は専門家に委ねるが、まずは日本を中心に調査結果を紹介し、筆者なりの問題提起をさせていただく。 調査はフランス、イタリア、スウェーデン、デンマーク、アメリカ、中国、韓国、日本の18〜69歳の女性各500人に自国の少子化に対する問題意識や必要な対策などを、それぞれの母国語で聞いた。2018年データで見ると、出生率は最も高いフランスで1.88。韓国は20年に0.84まで下がり世界最低を更新、日本はコロナ禍の影響で19年の1.36からさらに落ち込むとみられている。 理想の子供数に併せ質問した「夫婦にとって望ましい子供数」も各国の1位はやはり2人だった。特に日本は理想数の全体平均値が2.4人と8ヵ国中、最も高い数字となっている。8ヵ国の中でも特に出生率が低い韓国、イタリア、日本では、7〜8割が自国の少子化の現状に「問題あり」と指摘。「高齢世代を支える若者世代の負担が過大となる」、「公的医療や社会保障制度の財源が厳しくなる」と懸念を表明している。 社会は現役世代(15〜64歳)が高齢世代を支える形で成り立ってぃる。戦後間もない1950年、日本では65歳以上の高齢者1人を現役世代12.1人で支えた。少子高齢化の進行で2015年には2.3人となり、65年には1.3人になると推測されている。 若者世代の過大な負担を懸念 1200兆円超に膨らんだ国の借金も含め、若者世代に圧し掛かる負担は確実に大きくなる。これを受け前述の3カ国では「自国は子どもを育てやすい国と思うか」の問いに7割以上が「そう思わない」と答え、日本では若者世代の過大な負担を心配する声が8割を超えている。 各国とも、少子化対策としてフレックスタイム制やテレワークなど働きやすい環境の整備や出産・子育て費用に対する公的支援を求める声が目立つ。スウェーデンやデンマークでは子ども手当など経済支援のほかに働きながら子どもを産み、育てる環境を整備することで一時期、1.5前後まで落ち込んだ出生率を1.8前後まで回復させている。人口が静止状態となる人口置換水準(日本の場合は2.07)まで出生率を回復させるのは無理としても、同様の環境を充実させることで、政府が目標とする希望出生率1.8の実現は決して不可能ではないと思う。 子供を持つことと結婚の関係でも興味深いデータが得られた。欧州4カ国ではほぼ8割が「結婚は子供を持つ場合の前提条件とはならない」と“婚外子”を広く認めたのに対し、中国、日本、韓国は逆に60%前後が「なる」と回答。西洋と東洋の文化の違いとも言えるが、この点が未婚率の上昇、晩婚化とも関係し、出生率低下の一因となっている気がする。 特に日本は、婚外子を認める回答は14%と8ヵ国の中でも最も低い。半面、50歳時点で一度の結婚経験もない人の割合(生涯未婚率)は20年、男性26%、女性17%に上り、併行して晩婚化も進んでいる。結果、第1子の出産年齢も30.7歳(16年)と高く、その分、一人っ子が増える形となっている。経済面も含め、若いうちに家庭を持つことが出来る社会環境の整備が急務となる。 このほか、少子化に伴う労働力不足解消に向けた移民を前向きに評価する声も日本は一番低く、逆に「まず自国で出生率の増加などを図るべきだ」とする声が8割超と8ヵ国中、最も高い数字となっている。政府の少子化対策に対する評価も一番低い。それだけ政府に対する期待が大きいと言えるかもしれない。 子供は次代を担う宝 コロナ禍の収束が見えてくるのは、まだ先になりそうだ。世界の死者は約300万人に上り、事業所の閉鎖や失業者の増加など経済の疲弊も著しい。ポストコロナは、日本にとっても世界にとっても大変な時代になる。子供は次代を担う宝である。少しでも多くの子供を健全に育てて行くことが、最大の政策課題となる。政府が設置を検討中の「こども庁」(仮称)の一番の役割も、この点に置かれるべきである。世界の最先端を切って少子高齢化が進む日本が、どのような対策を打ち出すか、国際社会も注目している。 |