• もっと見る

前の記事 «  トップページ  » 次の記事
2021年03月23日(Tue)
地球人口は100億人を超えるか?
少子化が新たな文化として拡大
「大台(100億)に乗る前に減少に転ずる」

日本財団 参与 宮崎 正
風の香りロゴ
現在77億人の世界人口は果たして100億人を超えるのか? 国連は2030年に85億人、50年に97億人、2100年ごろ110億人に達しピークを迎える、と予測している。しかし、先進諸国を中心に急速に進む少子化も半端ではない。100億人に達する前に減少に転ずる、との見方が増えつつある。世界人口の推移はそれぞれの国の形だけでなく、地球温暖化や枯渇の危機に直面している食料・鉱物資源の将来をも左右するだけに国際社会の注目も高い。

唐突に世界人口の話を持ち出したのは、日本財団が「少子化」をテーマに実施した8カ国女性意識調査に関連して関係資料に目を通すうち少子化が予想以上のスピードで世界に拡大している印象を強くしたのが原因。素人の立場で言えば、世界で最も権威を持つ国連の人口予測も早晩、見直しが必要となるのではないか。

国連経済社会局人口部が公表した「世界人口推計2019年版」によると、今後の世界人口はインド、ナイジェリア、パキスタンなど9カ国を中心に増加する。特にサハラ砂漠以南(サブサハラ・アフリカ)の人口は、19年時点の10億6000万人から50年には21億2000万人に倍増する。一方で出生率の低下に伴い10年以降、27の国と地域で人口が減少しており、今後、50年にかけ55の国と地域で人口が1%以上減少する、としている。

これに対し昨年7月、米ワシントン大学の研究チームが「出生率の低下によって世界の人口は2064年に約97億人でピークとなり、今世紀末には約88億人にまで減少する」との予測を発表した。根拠のひとつは一人の女性が15歳から49歳までに産む子どもの数の平均を示す合計特殊出生率の低下。1950年に4.7だった世界平均は2017年に2.4に半減し、2100年までに1.7を下回るとしている。

最近話題の「2050年 世界人口大減少」(ダリル・ブリッカ―、ジョン・イビットソン著=文芸春秋)は、女子教育の普及や急速に進む都市化などを踏まえ「2050年、人類史上はじめて人口が減少する。いったん減少に転ずると、二度と増えることはない」と言い切っている。

人口が静止状態となる人口置換水準(合計特殊出生率)は2.1。死亡率の違いで日本は
2.07。1970年代に2を割り現在の出生率(19年)は1.36。2011年から人口減少が始まり、2100年には約6000万人まで減ると予測されている。

世界最大の14億人超の人口を持ち、2016年に「一人っ子」政策から「二人っ子」政策に転換した中国の18年の出生率は1.69。この国の統計数字は他の経済指標などと同様、精度を疑問視する向きも多く、実際の出生率はもっと低く、既に人口減少が始まっているとする見方もあるが、中国政府のシンクタンクである中国社会科学院も27年には人口減少が始まるとしている。

いずれにしても、早晩、人口減少が始まるのは間違いない。国連の基本シナリオによる2100年の中国人口は約10億人。これに対し前述の米ワシントン大は約7億3000万人に半減すると推計している。6億人、さらに5億人割れを予測する向きもある。日本や中国、さらに各国の人口減少を踏まえると、地球人口は100億人に達することなく減少に転ずるとの見方が正しいような気がする。

東アジアの3カ国(日本、中国、韓国)と欧州4カ国(スウェーデン、デンマーク、フランス、イタリア)にアメリカを加えた計8ヵ国を対象に1月、実施された女性意識調査結果を見ると、自由に子どもを持ち育てられるとした場合の理想の子ども数の8カ国平均は「2人」が45.2%で断然トップ、次いで「3人」が23.6%、「1人」10.2%、「子供はいらない」が8.3%と続いている。

少子化に伴って起きる労働力不足を解決する手段として、高齢者の参加、移民の受け入れ、女性の参加、AIの活用といった対策が議論されている。働く女性の増加が何よりの“決め手”であるのは言うまでもなく、数字を見る限り、環境さえ整えば出生率が上昇する余地は十分あるように思われる。

しかし、社会環境が整備され働く女性が増えると、その分、未婚率の上昇や晩婚化が進み、逆に少子化が加速される動きも出ている。福祉先進国フィンランドなどで既にこうした現象が起きていると報じられ、「少子化の罠」あるいは「出生率が1.5を下回ると元に戻らない」といった言葉で活発な議論が続いている。

大きな視点で見ると、子どものない生活や一人の子どもを大切にする新しい“少子化文化”が根付き始めているのかもしれない。いずれにしても人口・少子化問題は論点があまりに多く難しい。各国の動きや専門家の提言に注目したいと思う。


関連リンク
「1万人女性意識調査 特別編」8カ国の女性に聞く 少子化に対する意識
1万人女性意識調査









 万難排し「オリ・パラ」開催を!  « トップページ  »  東日本大震災から10年 戻らぬ被災地の「暮らし」