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2021年03月08日(Mon)
障害者のB型就労 「工賃三倍増」に手応え
(リベラルタイム 2021年4月号掲載)
日本財団理事長 尾形武寿

Liberal.png新型コロナウイルスの感染拡大が障害者就労支援施設の運営に深刻な影響を与えている。外出や各種イベントの自粛などで商品販売、企業からの受注が大幅に落ち込んでいるのが原因だ。そんな中で日本財団は宮城県と協力して障害者の就労機会の拡大と工賃向上に取り組むことになり、昨年十二月、支援連携協定を結んだ。
日本財団は老若男女、健常者、障害者の誰もが同じように暮らすインクルーシブな社会の実現を目指している。この一環として二〇一五年に「はたらくNIPPON!計画」を立ち上げ、障害者就労継続支援事業、とりわけB型事業所の運営改善に取り組んできた。障害者就労は雇用契約を結んで働くA型と、A型事業所で就労することが難しい障害者を対象とするB型に大別される。

B型は授産的性格が強く雇用契約は結ばない。このため支払いは賃金ではなく工賃と呼ばれる。厚生労働省によると一八年度の全国の事業所数は一万一千七百五十。約二十四万人が利用し、平均工賃は月一万六千百十八円。日本財団が地域創生事業で協力する鳥取県を中心に全国二十一カ所のB型事業所で「工賃三倍増」に取り組んだ結果、平均工賃は全国平均の二・四倍三万八千九百四十五円まで伸びた。

そんな成果が注目され今回、宮城県との連携協定締結となった。宮城県内のB型事業所は計二百四十二ヵ所(二〇年三月現在)、利用者は約五千百人。平均の工賃額は一万七千四百七十七円(一九年)。全国平均を上回っているものの、近年、伸び悩み、受注の拡大が課題となっていた。計画では企業が一部業務を外部委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)に連動する形で、単独の事業所では受注困難な大口業務を共同受注し、工賃の大幅アップを目指す。

日本財団では袋詰めなど従来型の軽作業だけでなく、BPOの中でも紙媒体資料の電子化やデータ入力など障害者に適した作業の開拓に力を入れてきた。宮城県ではNPO法人みやぎセルプ協働受注センター(仙台市)を拠点に、BPOが進む企業との連携を強化し、共同受注を拡大したいと考えている。

BPOは業務の一部を外部委託することでビジネス全体の効率性や生産性を高めるのを狙いに近年、急速に企業に拡大している。特に紙媒体資料の電子化は企業の内部文書から図書館の書籍や資料のデジタル化まで幅広い。近年、中国や東南アジア諸国の人件費の高騰で、これらの国で処理されていた軽作業を日本で行うケースも増えつつある。コロナ禍の影響が不透明とは言え、障害者就労に対する需要は高まる傾向にある。

障害者には障害の程度に応じ月約六万五千円から八万円の障害年金が支給される。工賃三倍増が目標とする月四万五千円が実現されれば、双方合わせ十万円を超え、生活保護から脱却も可能になる。家庭内での立場も定まり、少子高齢化で労働力不足が指摘される中、貴重な“戦力”として社会の期待も高まる。

日本財団では二〇一九年から「はたらくNIPPON!計画」を「はたらく障害者サポートプロジェクト」に衣替えした。障害者支援を一層、手厚くするのが狙いだ。そんな思いを込め、宮城県との調印式では村井嘉浩知事と協定書を交わした後、「障害があっても働いて工賃をもらい、自信をもって生活できる。そんな社会を目指したい」と挨拶した。既に福岡県からも同様の業務連携の申し込みをいただいているほか、多くの自治体から問い合わせも寄せられ、事業が確実に全国に広がる手応えを感じている。引き続き「民」の立場で障害者対策の強化に貢献したいと考えている。







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