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2021年03月01日(Mon)
「国家公務員諸君」自信と誇りを
(産経新聞「正論」2021年 2月26日付朝刊掲載)
日本財団会長 笹川 陽平

seiron.png新型コロナウイルスの感染拡大は何時収束するのか、依然、先行きは不透明だ。しかし、コロナ後に国内総生産(GDP)の2倍超にも膨れ上がった財政や疲弊した国内経済をどう立て直すか、かつてない難問が待ち受けているのは間違いない。楽観論者である筆者もさすがに不安を感じる。

「国家崩壊の前兆」?

国難を乗り切るには国を挙げた取り組みが必要である。とりわけ霞が関官僚の専門知識、政策立案能力に期待したいと思う。敗戦後の日本が奇跡とまで言われた高度成長で復活した背景には優秀な霞が関官僚の力があった。

「国家の経済政策は政財界の思惑や利害に左右されてはならない」。作家、城山三郎が当時の通産省(現経済産業省)を舞台に官僚の活躍を描いた「官僚たちの夏」には、国づくりにかけた高級官僚の熱い思いが記されている。いつの時代も、こうした力は最大限に活用されるべきである。

然るに近年、霞が関の士気や創造力の低下を指摘する声が目立つ。内閣人事局の資料によると、2019年度、20代の国家公務員総合職計87人が自己都合を理由に退職した。6年前の21人の4倍を超す。「辞める準備をしている」、「1年以内に辞めたい」と答えた30歳未満の職員も男性が14.7%、女性が9.7%に上った。河野太郎・国家公務員制度担当相は自身のブログに「危機に直面する霞ヶ関」と書かれたと聞くが、筆者に言わせれば「国家崩壊の前兆」である。

なぜこのような事態になったのか。政治主導が強まる中、官僚の自主性が失われ、自らの裁量で動ける範囲が狭まっている点に原因を求める声も多い。「ブラック霞が関」の著者、元厚生労働省官僚の千正康裕氏も月刊「正論」3月号の対談で、「官僚が自分発でものを考えるウエートがどんどん小さくなっている」と指摘している。

14年に内閣官房に内閣人事局が創設され、各府省の局長級以上約600人の人事は内閣人事局の承認が必要となった。政治上位の流れである官邸主導が強まり、官僚が政治家の顔色をうかがい、「忖度」という言葉が聞かれるようになった。一連の文書改竄や統計ミスはその結果であろう。


加速する政治上位の流れ

政治上位の流れが加速する中、官僚が役所の政策や法案について質問する議員から事前に質問内容を聞き取るための国会待機は旧態依然の形で続いている。「2日前の昼までに通告」の申し合わせを守る議員は少なく、前日深夜まで待機してようやく質問内容を聞き、未明にかけて答弁書を作成し、大臣に説明に間に合わせるケースも多いとされ、長時間勤務の大きな原因になっている。

コロナ禍の緊急事態宣言を受けオンライン活用も検討されているが、「対面」を重視する議員が多く、改善を強く申し入れれば、「国会軽視」の反発も予想され、見直しは思うように進んでいないようだ。かくして100時間を超える残業が恒常化し、働き方改革の旗振り役である霞が関の対応が最も遅れ“ブラック職場”の言葉さえ生んでいる。

現状を変えるには、何よりもまず政治が変わる必要がある。この点は別の機会に触れるとして、少なくとも政治と官僚の役割分担をもっと明確にする必要があるのではないか。憲法にも明記されているように「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」。

長時間勤務や定額制で正規の残業代が支払われていないとされる点の改善も急務だ。内閣人事局の調査でも男性の39.7%は「収入が少ない」、34.0%は「長時間労働で仕事と家庭の両立が困難」(複数回答)答えている。グローバル化の進行で魅力ある民間職場も増え、若者の就職希望先が多様化するのは当然として、近年、国家公務員志望者が一貫して減少傾向にある点はもっと留意されるべきだ。


政府委員制度の復活を提案

併せて01年に廃止された政府委員制度の復活も提案したい。現在も各委員会の求めに応じて各省庁の局長や審議官が説明に立つ政府参考人制度があるが、政府委員として答弁する政府委員制度とは役人としての矜持も高揚感もおのずと違う。専門家の立場で法案の細部などを説明することに何の問題もないはずだ。

ポストコロナの時代はあらゆる価値観が変わる。与野党が新しい時代の大きな絵を描き、官僚が専門知識を基に様々な選択肢を用意する姿こそ望ましい。コロナ禍の中で東京一極集中の見直しやオンライン、テレワークを活用した教育・働き方改革、医療制度の見直しなど、新しい社会づくりに向けた課題とヒントがいくつも登場している。

菅義偉首相の長男が勤める会社の接待問題で、あまりに潔さを欠く総務省幹部の国会答弁を前にすると戸惑いも覚えるが、霞が関が専門知識を持つ人材の宝庫である事実は動かない。国家公務員諸君が自信と誇りを持ってこの国の発展に寄与されるよう願ってやまない。









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