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2020年09月04日(Fri)
豪雨災害にコロナ禍 複合災害への備え新たに
(リベラルタイム 2020年10月号掲載)
日本財団理事長 尾形武寿

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想定外の豪雨災害が常態化し、年々、激しさを増している。今年も七月、想像を絶する集中豪雨が九州、中部地方を中心に日本列島を襲った。中でも熊本県では同四日、県南部を流れる球磨川が氾濫し、人吉市や球磨村を中心に六十七人の死者・行方不明者が出た。
球磨川は日本三大急流の一つで「暴れ川」の異名を持つ。三日から四日にかけた流域の二十四時間雨量は四百〜五百ミリにも達し、幹線道路や鉄道線路、鉄橋等のインフラが破壊され、家屋や公共施設も倒壊した。

水没した民家は泥と流木で埋まり、高齢者世帯が目立つ多くの家庭では支援がなければ手の打ちようがない。しかし、熊本県では猛威を振るう新型コロナウイルス禍を前にボランティアの受け入れを原則、県内に限った。大量の流木などを除去するにはパワーショベルなど重機を自由に扱う専門的技術を備えたボランティアが欠かせない。

そんな事情もあって七月末、樺島郁夫・熊本県知事から電話で「県内だけでは限界がある」と日本財団にボランティアの派遣要請があった。樺島知事とは、熊本地震(二〇一六年)で大きく崩れた熊本城や被災地の復興支援を通じ交流があり、PCR検査で陰性が確認された約三十人のボランティアや財団職員とともに八月八日、筆者も被災地の球磨村に入った。

自衛隊の復旧作業で幹線道路はどうにか通行できるものの、傾いた電柱の電線には枝葉や壊れた家財の破片がぶら下がり、両側を山に挟まれた一帯が十メートル近い増水でダム湖のようになったといわれる豪雨の凄さが実感できた。

入所者十四人が亡くなった渡(わたり)地区の特別養護老人ホーム「千寿園」は、約三百メートル南方を球磨川、すぐ脇を支流が流れ、建物は川底から数メートルの高台に立つ。濁流が流れ込んだ時、約六十人の入所者のうち二十人が一階に残され、職員の懸命な救出作業にもかかわらず十四人が犠牲となった。

筆者の故郷である宮城県石巻市は東日本大震災(二〇一一年)の大津波で一瞬のうちに街が壊滅した。逃げる間もない増水のスピードを聞くにつけ、想像を絶する“水の恐怖”は津波も豪雨も何ら変わらないことを改めて知る思いがした。村は主産業である林業や球磨川観光が大打撃を受け、どう復興するか、難問が待ち受けている。

ボランティア活動の報告を兼ね、近くの球磨村役場に松谷浩一村長を訪ねたものの、どう励ましたらいいのか、言葉に詰まる思いがした。たまたま役場を訪れていた高齢の男性が漏らした「もう、この村には住めない」の一言に、関係者の無念の思いを強く感じた。

昨年十二月、スペインで開催された国連気候変動枠組み条約第二十五回締約国会議(COP25)で発表された「海洋と雪氷圏特別報告書」は、温暖化で極地や山岳地域の氷河や氷床の融解が進み海水温や海面の上昇が不可逆的な段階まで進んでいると指摘し、今後、豪雨災害や異常高温などの発生が一層、激しく頻回に起きる事態が予想され、世界に衝撃を与えた。

日本財団では一九九五年の阪神・淡路大震災以降、災害対策を事業の柱の一つに立て、今回も豊富な経験を持つ黒澤司職員が全国各地のベテランボランティア約二十人と一足先に現地入りした。

わが国は豪雨災害だけでなく南海トラフ地震など巨大地震が何時、起きても不思議ではない状況にある。今回の新型コロナウイルスのような予想外の災害が複合する事態も増えよう。迫り来る“危機”にどう備えるか、荒れ果てた被災地を前にさらなる取り組み強化の必要性を改めて重く受け止めた。







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