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2020年07月30日(Thu)
《徒然に…》2020年東京大会は簡素化か、中止か 〜「18歳意識調査」から
日本財団 アドバイザー 佐野 慎輔
徒然に…ロゴ
この忌まわしき存在がなければ、日本の7月から8月、そして9月は例年に増した歓喜の輪に包まれていたに違いない。新型コロナウイルスの感染拡大は、2020東京オリンピック・パラリンピックを史上初の延期に追い込んだ。いや、なお続く威力は地上最大のイベントにも色濃く影を落とす。

消極的な意見が増えている

1年後、オリンピック・パラリンピックは開催されるのだろうか。中止した方がいい。再延期を考えてもいい。7月24日の本来の開催予定日が近づいたころ、多くの世論調査が新聞紙面に掲載された。

共同通信社が7月中旬に行った全国電話調査では来夏、「開催すべきだ」が23.9%に留まり、「再延期」が36.4%と最も多かった。「中止すべきだ」とする33.7%を合わせれば消極的な意見が大半を占めた。朝日新聞社も同じ時期に全国調査している。こちらは「開催」が33%とやや増えて「再延期」32%、「中止」は22%である。70歳以上に「開催」支持が多く、40代以下は「再延期」が4割以上と紙面は伝えた。ちなみに共同通信社の調査では60歳以上の高年層で40.3%が「中止」と回答、最も高い割合が示された。中年層(40〜50代)は34.3%、若年層(30代以下)23.5%を上回っている。また若年層の47.7%、中年層36.2%、高年層28.9%が「再延期」を望んでいるという結果だった。

一方、早稲田大学スポーツビジネス研究所と同志社大学スポーツマネジメント研究センターによる共同調査では、「通常開催」との設問に52.7%が「反対」もしくは「どちらかといえば反対」と回答した。この調査は全国18歳以上の2,000人を対象に3度実施され、1回目の45.1%から2回目の47.9%、3回目で50%越えと回を追うごとに否定的な意見が増えていったことがわかる。7月中旬に行われた3回目の調査で通常開催に「賛成」あるいは「どちらかといえば賛成」と答えた人は18.4%に過ぎない。

世論調査は調査対象によって、得られる数値、結果が異なる。共同と朝日の調査でも、共同が「再延期」が多かったのに対し、朝日は「開催」がやや多い。早稲田と同志社のように「通常開催」と問いかければ、否定的な意見が多くなるのは当然の帰結である。ただ後者の調査で、回を追うごとに否定が増えているのが気にかかる。コロナ禍の深刻さがうかがえる結果といっていい。


「18歳」は同年代選手を思いやる

さて、日本財団の「18歳意識調査」である。全国の17歳から19歳までの男女1,000人にインターネットで問いかけた。7月上旬行われたテーマが「東京オリンピック・パラリンピック」―昨年も同時期に調査しているが、コロナ禍という前年には想像もしえなかった事態が反映された結果となった。
 大会開催について、最も多かったのが「予定通り開催」の28.0%。以下、「1年延期した22年開催」22.3%、「中止」19.7%、「簡素化して開催」18.5%、「次回大会の24年以降に開催」11.5%と続く。

この数字をマスメディア風の設問にあてはめれば、46.5%が「開催」を望み、「延期」33.8%、「中止」19.7%という結果になる。若い層が開催を前向きに捉えているとみていい。理由としては「中止」「延期」ともなれば、さらに日本経済に悪影響が出るとする答えもあろう。しかし、彼らの場合は同年代、やや年齢が上の世代的に近い選手たちへの共感、共鳴が大きいと考える。同年代の選手たちこそ世代の代表であり、彼らの目標遂行のための努力を実らせてあげたいとする意識ではないだろうか。ある種の自己同一化といってよく、実はそれこそスポーツが持つ価値のひとつにほかならない。

「簡素化開催」の理由にはリスク回避、経済負担の軽減などがあがるが、一方で本来の姿ではなくとも「オリンピック・パラリンピックがあった方がいい」とする思いがあるようだ。地上最大のイベントは代表選手のみならず、観衆にとっても世界を知る格好の舞台となる。そう考えた人たちが高年層より若年層に多いとすれば、開催意義もあるというものだ。若い人たちには「持続可能なオリンピック・パラリンピック」がどうあればいいのか、理想と現実を考えてもらう縁(よすが)としていただきたい。

01.開催どうするか.png

簡素化は避けられない

調査では「簡素化」についても問いかけている。ここでは「観客席の縮小、チケットの販売制限」26.2%、「開会式・閉会式の縮小」26.0%が高い数値を示した。大会組織委員会は現時点でチケットの販売制限について明確には言及しておらず、国際オリンピック委員会(IOC)は開、閉会式の縮小について否定的だ。

IOCと組織委員会は9月、この問題を検討し、方針を策定する予定だが、簡素化は避けられまい。大会経費1兆3,500億円にプラスした延期による追加費用は数千億円、一説には3,000億円必要だといわれている。一義的には東京都が負担しなければならないが、9,000億円あった財政調整基金という貯金はコロナ対策で底をつき、経済状況悪化による税収縮小は都財政を圧迫する。赤字補填は日本国政府が行うと「開催都市契約書」に定められている。しかし、コロナ対策との兼ね合いから、出費も容易ではない。

02.簡素化すべき.png


昨年、「大会成功への備えは」と聞いたときには「猛暑対策」が30.4%でトップだった。「テロ」24.1%、「道路・鉄道の混雑」が20.3%と続いた。今回の調査では74.0%と圧倒的な数値を示したのが「新型コロナウイルス対策」である。もちろん昨年にはありえなかった設問である。

「三密(密閉、密集、密接)を防いだ会場運営」を行い、「ワクチンや治療薬の普及」は当然としても、206カ国・地域からくる選手団の「入国の際の検査の徹底」「選手・大会関係者らのPCR検査の強化」は不可欠である。そのうえで「猛暑」6.3%、「テロ」4.7%、「道路・鉄道の混雑」3.2%といった対策を講じなければならない。

前回の調査では、「オリンピック・パラリンピックの両方とも楽しみ」と答えた人は27.7%だった。「オリンピックが楽しみ」と答えた39.5%、「パラリンピックが楽しみ」とする1.3%を合わせて68.5%の人が期待感を抱いていた。今回、その数字はそれぞれ31.9%、22.7%、0.9%と変化し、「楽しみ」とする人は55.5%に減少している。当然、「関心なし」派は31.5%から44.5%にまで増えたわけだが、この数字をどうみるべきだろうか?

オリンピック・パラリンピックに関心なしが13ポイント数値を伸ばしたとするか、それでも半数以上の人が開催に期待感を示したとみるべきなのか。新聞社でいえば、どちらで見出しを取るかで悩ましい。それでも若い層の半分以上は、このコロナ禍においてもオリンピック・パラリンピックに希望をみていると考えたい。

07.オリパラ楽しみか前年対比.png

開催できなければ中止
 
私は長くオリンピック・パラリンピック取材に関わってきた。コロナ禍の状況で、それでも開催に期待を持ち続けているひとりだ。もちろん、実情を考えれば軽はずみに開催を口にはできない。日本だけではない、世界の情勢をみつつ、コロナ禍の状況を踏まえながら対策を講じていく必要を思う。
 一方で、大会の再延期は難しいと考える。

22年2月に北京冬季オリンピック・パラリンピック開催が予定され、6月にはサッカーのFIFA(国際サッカー連盟)ワールドカップ開催とスポーツカレンダーは過密だ。7−8月には来年から1年延期された水泳と陸上競技の世界選手権が開催予定、再度の延期はありえない。

2024年はパリでオリンピック・パラリンピックの開催が予定される。パリにとって1924年大会以来、100年ぶりの開催。記念の思いを込めて勝ち取った開催権を東京に譲るわけにはいかない。混乱の極みとなろう。ロサンゼルス開催が予定される28年への移行、25年に開催都市を決める32年大会開催は考えられても、さて、選手は当然、関係者のモチベーションを維持できるだろうか。少なくとも予定していた競技会場は大幅改修、あるいは新設を余儀無くされ、選手村に充当すべき場所を探し得るのか。日本経済の先行きもわかってはいない。

来年、開催できなければ中止、私は現実をそう思う。そしてもうひとつ、開催する、しないに関わらず、とりわけ巨怪化したオリンピックはありようを変えていかなければ存在自体が危なくなろう。創始者ピエール・ド・クーベルタンは1929年、オリンピックの未来を憂い、「輪廻転生というものが存在し100年後に生まれ変わったら、私はオリンピックを破壊するだろう」と述べた。2021年までの1年間、オリンピックの存在意義を改めて考える時間としたい。


関連リンク:
18歳意識調査
日本財団「18歳意識調査」第27回テーマ:東京オリンピック・パラリンピックについて ―結果速報―







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